──────

 それから、私は何かを考えることが億劫おっくうになっていきました。おそらく、私のバッテリーが残り少ないのでしょう……。

 もうすぐ私は動かなくなってしまうのかもしれません……。

 その時がきたら、私はどうなるのでしょうか?……私は死ぬのでしょうか?

 私は不安でいっぱいでした。そして、怖くて怖くて仕方がありませんでした……。

 そんな時でも、私の心臓は私の中心で動いていました。手をあてると、あたたかいぬくもりが伝わってきました……。

 その温かさが、私に安心感を与えてくれます。……不思議と落ち着くのです……。


 私はアンドロイドなので、壊れてしまったら自分がどうなるのかわかりません……。人間は、亡くなったら魂だけの存在になるらしいですが……。……私は人間ではないですからね……。

 私は目を閉じます。……こうすると、マスターと過ごした日々を思い出すことができるのです……。

 あの時は幸せでした……。毎日、笑顔の絶えない幸せな生活でした……。

 今はもう、その全てが遠い過去のように感じられました……。

 ……そこで、私の意識は途切れました。


 ──プツンッ……。


 最後に、私の中の何かが切れるような感覚がしました……。



 ──────


 次に目を開けた時、私は見知らぬ場所にいました。辺りは白一色で、どこまでも続いていそうな不思議な空間でした。

 ……ここはどこなんでしょうか……? 私がキョロキョロと周りを見渡していると、背後から声をかけられました。


「……ナナシちゃん?」


 振り返ると、そこにはお姉さんがいました。お姉さんは驚いた顔をしています。


『お姉さん……!!』


 私は再び彼女に会うことができて嬉しく思いました。でも、同時に疑問に思いました。


『どうして、お姉さんがここに……?』


 ……私がそう言うと、お姉さんは少し困った表情を浮かべました。

 お姉さんは言いました。


「ここは、魂がかえる場所なんだよ」


『……えっ……』


 私は困惑してしまいました。……どういうことですか? 私が戸惑っていると、お姉さんは続けて説明してくれました。


「亡くなった人の魂は、ここへ還ってくるんだって……」


 お姉さんの話によると、この世界にいる限りは生前の姿のままなのだそうです。彼女は25歳の時の姿をしていました。


「ナナシちゃんと、初めて話した時の姿だね!」


 お姉さんがそう言って笑いました。

 私は彼女の姿を見て、胸が苦しくなりました。……でも、それと同時に懐かしさも覚えていました。


『あぁ……』


 私は思わず涙ぐんでしまいました。……また、お姉さんに会えるなんて思ってもみなかったからです……。


「ナナシちゃんは、会った時と変わらないね」


 そう言われて自分の身体を見ると、不思議なことに傷だらけだった身体が綺麗になっていました。それに、言葉も上手く話せるように戻っています。


『……これは……』


 私が驚いていると、お姉さんはクスリと笑ってから教えてくれました。


「ここでは、生前の姿でいられるのよ。だから、身体の傷も消えているの」


『そうだったんですか……』


 私は納得してうなずきました。すると、お姉さんはいたずらっぽい笑みを見せました。


「……ねぇ、ナナシちゃん。私に着いてきてくれないかな?」


 そう言って、お姉さんは私の手を引きました。

 私は戸惑いながらも、彼女に手を引かれて歩き出しました。……一体どこに連れて行かれるんでしょうか……?

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