200~

 ある時、私の身体に異変が起こりました。


 ──パキッ……。


 何かが割れるような音が聞こえました……。それはどこから響いたのかわかりませんでしたが……。とても小さな音でした……。


『……?』


 私は何だろうと思いましたが、原因はわかりませんでした。

 ……でも、後になってわかりました。それは、私の身体から発せられた異音だったのです……。


***

 それからしばらくして、私は手に持っている物をよく落としてしまうようになりました。

 あれだけ練習して上手になった文字を書くこともできなくなりました。

 腕が思うように動かないのです……。


 それからも、私は色々なことが上手くいかなくなりました。

 私はよく転ぶようになってしまいました。バランスを崩して倒れてしまうのです。


 ──ガシャンッ!


 転ぶたびに大きな音をたてて、私の身体は床に打ち付けられました。

 身体の至るところに擦り傷ができましたが、私は痛みを感じることができません……。痛覚がなかったからです……。

 でも、マスターが作ってくれたこの身体に傷ができるたびに、私の心はひどく痛みました……。


『……うぅ……ぐすっ……』


 私は涙を流しました。……でも、誰も慰めてくれる人はいませんでした……。

 私は1人で泣くしかできなかったのです……。


 私の身体は、マスターによるメンテナンスを受けていました。でも、マスターが亡くなってからは、それもなくなっていました。だからなのか、不具合が頻繁に起こるようになっていました。


 中でも、上手く話せなくなってしまったことはとてもショックでした……。

 今まではスムーズに話すことができたのに……。今では、口がうまく動いてくれないのです……。


 そして、耳も遠くなりました。

 鳥たちの鳴き声や、木々のざわめきが聞こえるはずなのに、なぜか私の耳にはほとんど届いてこないのです。……まるで、私の身体からどんどん感覚が失われていっているようでした……。


***

 それからも私の身体は、日に日に変化していきました。

 歩くことすらままならない状態になってしまったのです……。

 しょっちゅう、身体のいろいろなところをぶつけては怪我をしていました。


 私は、自分が今どんな状況にあるのか理解していませんでした。……ただ、自分の身に起きていることに恐怖を感じていました……。

 壊れてしまいたいと思っていたのに、いざそうなってしまうと怖いんです……。


 私はベッドの上で横になっていました。……もう、何もかもがどうでもよくなっていました……。

 私は窓の外を眺めながら、ボーッとしていました。……外の世界は、私には眩しすぎました。

 ……もう、見るのも嫌になりました……。

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