90

 それからは、私1人きりの生活が始まりました。これまでもずっと1人で生活していたので、大丈夫だと思っていました。


 ……でも、それは最初の10年だけでした。


『そろそろ、私の90年目の誕生日ですね……。お姉さんは、何をプレゼントして……』


 そこまで呟いて、私はハッとしました。……お姉さんは、もうこの世の住人ではないのだと……。

 私はまた悲しみに襲われました。


『お姉さん……。私は寂しいです……。お姉さんがいなくなってからは、毎日がつまらないです……』


 私はベッドの上で、膝を抱えながら座り込んでいました。

 ……今もこうして、お姉さんが来る前に掃除をしていたのです。彼女が10年ごとに連絡をくれたり、来てくれていたから、私は1人でも生活できていたのだと知りました。……でも、今はもうお姉さんはここにはいないのです……。

 私は寂しくなって、ベッドに倒れこみます。そして、枕に顔を埋めました。


『うっ……ううっ……』


 私は声を押し殺しながら、静かに泣くのでした。

 お姉さんが亡くなってからというもの、私の心にはポッカリと穴が空いてしまったような気分でした。

 心臓はこの身体に入っているのに、まるで自分のものではないみたいで……とても不思議な感覚でした。

 私は、ボーッと窓の外を見つめていました。今日は天気が良いです。窓から差し込む陽の光が暖かく感じられました。

 私はその光に誘われるように、ゆっくりと立ち上がります。そして、部屋の外へ出ていきました。


 研究所の中は静まりかえっています。誰もいません。……当たり前のことなのに、それがすごく私の心を苦しめました。

 私はトボトボとした足取りで、研究所の中を巡りました。


 お姉さんと過ごした日々が、次々と脳裏に浮かび上がってくるようでした。

 楽しかったこと、悲しかったこと、怒ったこと、笑ったこと、泣いたこと……。その全てが、今の私にとって大切な想い出でした。

 私は、かつてお姉さんが言っていた言葉を思い出します。


 ──「心が目覚めたあなたには、1人きりは辛いと思うの……」──


 ……その通りでした。……私は、誰かと一緒にいたいと思いました。

 でも、誰と? 私には、友達と呼べる人はいません。私が出会った人は、マスターとお姉さんだけでした。その2人はもう……いなくなってしまったのです。

 私は途方に暮れてしまい、再びベッドに戻りました。


 お姉さんがいなくなったことで、私は孤独感を覚えました。今までは、お姉さんが側に居てくれたから平気だったんだと思います。


 心を宿した私は、独りでは生きていけなくなっていました……。

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