70

 月日は流れ、私の70年目の誕生日を迎えました。


 私はいつも通り、研究所のベッドの上で目を覚ましました。窓を開けると気持ちのよい風が吹き込んできて、私の頬を優しく撫でていきます。

 今では、風を「気持ち良い」と感じるような生活にも、だいぶ慣れました。研究所の近くを散歩して、楽しいことを見つけることも覚えました。

 心が宿ってからというもの、毎日が充実している気がします。



 今日は、お姉さんから誕生日の贈り物が届く予定になっています。私はワクワクしながら待っていました。

 しばらく待っていると、1通の手紙が届きました。差出人の欄には、お姉さんのサインが書かれていました。


 私は早速手紙を読み始めました。


《ナナシちゃんへ。お久しぶりね。元気にしているかしら?》


 お姉さんは相変わらず、字が上手です。


《私の方は、もうすっかりおばあちゃんになってしまったわ。80歳だもの……。最近は、歩くのがやっとなくらい……。だから、この手紙もベッドの上で書いています》


 お姉さんの近況を知って、少しだけ悲しくなりました。……私の心臓は、小さく痛みました。


《でも、嬉しいこともあったのよ。……なんと、ひ孫が産まれたのよ!もう可愛いくて仕方がないわ!!》


 お姉さんは興奮気味に、そう書き記していました。

 私はそれを読んで、思わずクスッと笑ってしまいました。

 お姉さんは、本当に幸せそうです。

 ……でも、なぜか私は少しだけ寂しくなりました。……どうしてでしょうか。

 私が首を傾げつつ読み進めると、お姉さんは続けてこう書いていました。


《あぁ……でも心配しないで!ナナシちゃんのことも忘れてはいないから!あなたも、私にとっては大事な家族なんだから!》


 私は嬉しさのあまり、涙が出そうになりました。……お姉さんは、本当に素敵な女性です。


 それからも、お姉さんは私へのメッセージをたくさん残してくれていました。

 私はそれを何度も繰り返し読んでから、丁寧に折り畳んで封筒に戻します。そして机の引き出しにしまいました。



『……お姉さん。私も、あなたのことが大好きです』


 そう言ってから、私は大きく伸びをします。


『……よしっ!私も、頑張らないと!』


 そうして、私はまず部屋の掃除を始めました。

 ……次に、もしお姉さんが来てくれた時に、部屋が散らかっているのは失礼だから。


 私はテキパキと動いて、お姉さんがいつ来てもいいように準備をしていきました。

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