60

 それからしばらくして……。私の60歳の誕生日が訪れました。


 でも、お姉さんはここには来ていません。私は前に、彼女からこんな電話をもらっていました。


《私も歳だからねぇ……。研究所に行くのも、辛くなってきたのよ……》


 そう言うお姉さんの髪には、白いものが混じってきたことを、私は彼女が送ってくる写真で知っていました。


『私は大丈夫です。無理をなさらないで下さい……』


 私の言葉に、お姉さんは申し訳なさそうな声で言いました。


《ごめんなさいねぇ……。本当はあなたに会いに行きたいのだけど……。脚が思うように動かなくてね……。……でも、あなたの誕生日は絶対に祝いたいのよ。だから、プレゼントを郵送するから、楽しみにしておいてね……!》


『わかりました。お待ちしています……!』


 私がそう答えると、お姉さんは優しい声でささやくように言いました。



《あなたに出会えて、本当によかったわ……。あなたのおかげで、楽しい日々を過ごすことができたのよ……》


『それはこちらも同じです……』


《ありがとうね……》


『いえいえ……。お互い様ですよ……!』


 ……私たちはお互いに別れを惜しむような会話を交わしてから、通話を切りました。



***

 その後、私はお姉さんから届いたプレゼントを開けました。

 中には1冊のアルバムが入っていました。開いてみると、そこにはたくさんの思い出の写真が貼ってありました。

 ……どれもこれも笑顔のお姉さんと私の写真ばかりです。


『ふふふっ……』


 私は思わず笑ってしまいました。きっとお姉さんは、自分のいない間に寂しくないようにと気遣ってアルバムを送ってくれたのでしょう。……その気持ちが、すごく嬉しかったのです。


『お姉さん……。ありがとうございます……』


 私はそう呟いてから、写真を眺め続けました。



 お姉さんとは、私の誕生日に毎年写真を撮っていました。20年を過ぎた時からは、10年ごとに撮っていました。

 初めて2人で撮った写真は、写真立てに入れてあります。だから、それ以降の写真がアルバムに貼ってありました。


 始めの方にある写真は、それこそ本当の姉妹のように仲良さげに写っています。

 でも次第に、姉妹というよりは母娘のように見えてきました。それは私の見た目が変わらず、お姉さんだけが歳をとっていくからです。


『……お姉さん。お姉さんは、どんな気持ちでこの写真を見ていたのですか?』


 私が聞いても、当然返事はありません。それでも、お姉さんは私にとって大切な人です。

 私はそのことに変わりはありません。

 ……たとえ私たちの姿がどう見えようとも。……まぁ、私たちのことを知る人はいませんが……。



 私はその後も、お姉さんとの思い出に浸りながら、ページを次々とめくっていったのでした。

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