50

 私の50歳の誕生日が来ました。

 ……といっても、私の見た目は変わりませんが。


 研究所で待っていると、お姉さんが来ました。


『お姉さ……』


 挨拶をしようとしましたが、思わず言葉を失ってしまいました。なぜなら、お姉さんは暗い顔をして俯いていたからです。


「ナナシちゃん……。遅くなってごめんね……」


『いえ……。それより、何かあったのですか……?』


 私が尋ねると、お姉さんはため息を吐いてから話し始めました。


「実はね……。ママが……死んじゃったの……。歳だったからね……。覚悟はしていたんだけど……。いざその時が来ると、ショックだったわ……」



 お姉さんの言う『ママ』は、私にとっての『お母さん』でもありました。

 私は一度も会ったことはありませんでしたが、お姉さんが悲しんでいるのを見ると、私まで悲しい気持ちになりました。


『そうだったのですね……。……私には、何もできないことですが……。お悔やみ申し上げます』


「……ありがとう。ナナシちゃんに言われると、すごく元気が出るわ……」


 そう言って、お姉さんは私を抱き寄せます。


『お姉さん……。私、お姉さんに会えてよかったと思っています……。お姉さんがいなければ、私は今も一人ぼっちでした……。本当に感謝しています……』


 私は素直な想いを口にします。すると、お姉さんは泣き出してしまいました。


「私こそ……。あなたと会えたおかげで、毎日楽しく過ごせたわ……!本当にありがとう……!!」


 お礼を言う彼女の声は震えていました。私はお姉さんの頭を撫でてあげました。

 前に私が泣いてしまった時に、お姉さんにこうしてもらったのを思い出したからです。


「うぅ……。ナナシちゃ〜ん……」


 お姉さんは私に抱きついたまま、しばらくの間は離れようとはしてくれませんでした。



***

『落ち着きましたか……?』


 私がそう聞くと、お姉さんはこくりと小さく首を動かしてから答えます。


「ええ……。ごめんね……。急に泣いちゃったりなんかして……」


『いえ……。気にしないでください……。誰にだって、そういう時はありますから……』


 ……私も、マスターが亡くなったことを思い出してしまった時、涙を流してしまいましたから。



「そうね……。……そうだわ、ナナシちゃん。誕生日プレゼントを持ってきたのよ」


 お姉さんはカバンから包みを取り出して、私に手渡します。


『開けても、いいのですか……?』


 私がそう言うと、お姉さんは微笑んで言いました。


「もちろんよ!そのために、用意したんだから……!」


 私は包みを開けてみました。すると中から、可愛らしいリボンが出てきました。


『わぁ……!ありがとうございます……!とても嬉しいです……!』


 私がお礼を言うと、お姉さんは嬉しそうに笑います。


「ふふっ……。喜んでもらえて良かったわ……!私も、あなたのために選んだ甲斐があったわ……」


『このリボンは、髪に付けるんですかね……?それとも、腕とかに付けた方がいいのでしょうか……』


 私がそう言うと、お姉さんは笑いながら言いました。


「あははっ!ナナシちゃんは面白いわね!そんなの、好きな方でいいじゃない!」


『……それもそうですね』


 自分で言って、少し恥ずかしくなりました。

 私は顔を隠すために俯きますが……。すぐに頭の上に違和感を感じました。

 見上げると、お姉さんが私の頭に手を伸ばしていました。そしてそのまま私の髪を結ってくれました。


「よしっ!これでいいわ!」


 鏡を見ると、私の髪に綺麗に結ばれたリボンが見えました。まるで本物の蝶々のように、ゆらゆらと揺れています。


『……すごいですね。こんなこともできるなんて』


 私は感嘆の声を上げます。


「まあ、このくらいなら簡単よ。……どう?気に入ったかしら?」


『はい……。とっても……!』


「ふふっ……。それは何よりだわ……!」


 お姉さんは満足そうに笑っていました。

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