30

 30年目の誕生日。この年もお姉さんは研究所には来られませんでした。

 代わりに、お姉さんから手紙が送られてきました。


 私は早速、封を破って読み始めました。

 内容は、近況報告のようなものでした。お姉さんは結婚して、今は旦那さんと一緒に暮らしているそうです。


 同封してあった写真には、お姉さんと旦那さん、そして7歳くらいの男の子が写っていました。3人は笑顔でこちらに手を振っていて、見ているだけでとても温かく感じました。


『……お姉さん。お子さんが生まれたのですか……。お祝いしなくてはいけませんね……』


 私はそう思いましたが、お姉さんが研究所に来れない以上、何もできることはありませんでした……。


 少し寂しく思いつつ、再び手紙を読み進めます。手紙は、最後にこう締めくくられていました。


「ナナシちゃん、誕生日おめでとう!本当は直接会いに行きたかったんだけど、なかなか難しくてね……。でも、プレゼントだけはどうしても渡したくて……。だから、次のお休みにそっちに行くことにしたの!楽しみにしててね!」


 その文章を読んでいる時、私はとてもワクワクしていました……。



***

 3日後の朝のこと。研究所の入り口付近で、私はお姉さんを待っていました。しばらくして、彼女が現れました。


『おはようございます……!』


「ナナシちゃん!久しぶりね!」


『お姉さん!お元気でしたか……?』


 私は思わず駆け寄ってしまいました。


「もちろんよ!元気だけが、私の取り柄だもん!……ごめんね。10年ごとにお祝いするって決めたのは、私なのに……」


 お姉さんはとても申し訳なさそうな顔をしています。


『いえいえ!こうして会えただけでも嬉しいですよ!』


 私は本音を口にします。

 すると彼女は、「そう?ならよかったけど……」と言いながら微笑みました。その表情からは安堵している様子が伝わってきて、それだけ気にしていたのだと感じました。



「それじゃあ、少し遅くなっちゃったけど……プレゼントよ!」


 お姉さんは鞄の中から包みを取り出して、私に渡します。


『ありがとうございます……!では、私からもこれを……』


 私はお姉さんにプレゼントを渡しました。


「えっ……!私にも、プレゼントを用意してくれたの……!?」


『はい……。お子さんが産まれたと知ったので……。そのお祝いがしたかったんです……』


 私は正直に答えます。


「……そうだったのね。嬉しいわ……。本当に……。……ねぇ、今ここで開けても大丈夫?」


『はい。大丈夫です』


 お姉さんにプレゼントを手渡すと、彼女は包みを開けました。



「わぁ……!これ、裏の森にある花畑の写真じゃない!しかも、こんなにたくさん……!!」


『はい……。お姉さんに見せたくて……』


 私はお姉さんに、写真を撮ってきた時のことを話しました。


『その写真は、結婚のお祝いをしたくて、撮ってきたものだったんです。私は、この研究所の近くにしか出られませんが……。それでも、お姉さんが喜ぶ顔を見たいと思ったので……』


 私がそう言うと、彼女は目に涙を溜めて言います。


「ありがとう……!すごく嬉しいわ……」


 お礼を言う彼女の声は震えていました。


「ねぇ……。あなたも、私からのプレゼントを開けてみてくれないかしら?」と言われて、私は思い出します。


『あ、はいっ!そうですね……』


 私はお姉さんからもらった包みを開けることにしました。



『これは……』


 中に入っていたのは、写真立てでした。写真を入れる部分が2つあります。


「ふふっ……考えることも、似てきたのかしらね……。前に、一緒に写真を撮ったことがあったでしょう?それを現像してきたから、入れようと思ってね……」


『……そうですね。確かに、いいかもしれません』


 私はそう言って微笑みます。


「それじゃあ、早速入れてみましょう!……はい、これ!あなたが入れてみて!」


 私は渡された写真を眺めます。そこには、私とお姉さんが並んで写っていました。

 この頃の私の笑顔は、まだぎこちないものでした。


『お姉さん……』


 私は彼女に話しかけました。


「ん?どうしたの……?」


『もう一度、写真を撮りませんか……?……この写真の私は、今の私の笑顔とは違いますから……。今度は本当の笑顔で写りたいです……』


 そうお願いすると、彼女は嬉しそうに笑いました。


「そうね……。私もそう思ってたところよ……」


 私たちは再び、写真を撮りました。


 そして、出来上がった写真は、今までで一番素敵な笑顔をしているように見えました。

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