20

 私の20回目の誕生日が来ました。


 でも、お姉さんはここには来ていません。なぜなら、彼女は数ヶ月前に結婚が決まったからです。



「私が結婚なんて、今でも考えられないけどね……」


 少し前に来た時に、彼女はそう言って苦笑いしていました。

 お姉さんのお相手は、同じ職場の後輩だそうです。


「彼から付き合ってくれって言われた時は、驚いたなぁ……。まさか私なんかに告白してくるなんて、思わなかったからさ……」


 彼女の言葉に、私は『素敵な方なのですね』と答えました。

 すると、お姉さんは照れた様子を見せました。


「えへへ……。そうかな?でもまあ、いい人だよ。優しくて、頼りになって、それに……私のことを愛してくれてるんだって感じるの……」


 お姉さんは幸せそうに語っていました。そんな彼女を見て、私も嬉しくなったのを覚えています。



 お姉さんは結婚式の準備などで忙しく、当分来られなくなるだろうと言っていました。

 だから、これから先の私の誕生日には、10年ごとにプレゼントを贈ると約束してくれたのです。


『お姉さん、おめでとうございます……。そして、ありがとうございます……』


 私は1人呟き、彼女から贈られてきたプレゼントを開けてみることにしました。



 中には、メッセージカードと、綺麗に包装された小包が入っていました。


 まずは、メッセージカードの方に目を通しました。そこには、お姉さんから私への想いが綴られていました。


 ──「誕生日おめでとう。私の妹であるナナシちゃんに、心を込めて贈り物をしたいと思います。……ナナシちゃんが喜んでくれたらいいな」


 私は嬉しくなって、すぐに次のページをめくりました。


 ──「さっき言った通り、あなたにプレゼントを用意したわ。……あなたに似合うと思って、私が選んだの。きっと、あなたにぴったりだと思うわ」


 ……私はプレゼントを手に取り、開封しました。それは、小さなブローチでした。


『これが私の……』


 ……私は、胸に着けて鏡で確かめてみました。


『……可愛い……』


 それは、私が今まで見たどんなものよりも美しく見えました。……まるで、お姉さんの心が宿っているかのように……。


『……』


 私はしばらく、鏡の中の自分を見つめ続けました。ブローチは、私の胸で輝いていました。


『ありがとうございます……。お姉さん……』


 私はもう一度、お姉さんに感謝しました。



『……でもやっぱり、お姉さんのようには上手く笑えませんね……』


 私は鏡の前で、ぎこちない笑顔を浮かべました。


 それから、私は毎日のように鏡の前で笑顔の練習をし始めました。

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