18

 それからしばらくして……。……私は18年目の誕生日を迎えました。


 この頃になると、お姉さんは忙しいようで、あまり研究所に来れなくなっていました。


「私も28歳だからさ……。仕事だけじゃなくて、結婚とかのことも考えないといけなくなったのよ……」


 ……そう言って、彼女は寂しげに笑いました。


『そうですか……。寂しいですが、仕方ありませんね……。お姉さんの人生ですから』


 ……本当は寂しくて堪りませんが、彼女の人生です。私が口を出すわけにはいきません。そう自分に言い聞かせました。



「……ねぇ、ナナシちゃん」


『はい……?』


「あなた、好きな人とかいないの?」


『えっと……』


 ……私は考えました。私の心を揺さぶる人……。それは一体誰なのでしょう……?


 真っ先に思い浮かんだのは、マスターの顔でした。

 でも、それは恋という感情とは違う気がします。そもそも私は、マスター以外の男性と会ったことがありませんでした。


『わかりません……』


「そっか……。まあいいわ!……ナナシちゃんは、まだ心が宿ってから3年しか経っていないもの。ゆっくり考えればいいから!」


 ……私は、マスターのことが好きだったのかもしれません。でも、今となってはわかりません。



『はい……。ところで、ミカさんの方はどうなのですか?』


「えっ?私のこと?」


『はい。ミカさんには、好きな人がいるのですか?』


 私が尋ねると、彼女は少し困ったような顔をしました。


「私は、いないかな……。結婚するにも、貰い手なんて現れないだろうしね。ほら、私って可愛くないからさ……」


 私は否定しようと思いましたが、ミカさん以外の女性を知らなかったため、上手い返しが見つかりません。



『そんなことは……。ミカさんはとても魅力的な方だと思いますよ?』


 私がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑いました。


「ふふっ、ありがとう!……そうだ!それより、プレゼントだったわね」


 ミカさんは、持っていた鞄の中から小さな包みを取り出しました。



「はい!誕生日プレゼントよ!開けてみて!」


『はい……。ありがとうございます……!』


 私が包みを開けると、そこには可愛らしいヘアピンが入っていました。


「ナナシちゃんは可愛いんだから、もっとオシャレしないともったいないわよ!ほら、付けてあげるからじっとしてて!」


 私は彼女に身を任せました。……鏡を見ると、私はいつもより大人っぽく見えました。



「うん!やっぱり似合うわね!」


『はい……。とても嬉しいです』


「ふふん!私が作ったんだもの!当然でしょ!」


 お姉さんの自信満々な態度を見て、私は思わず笑ってしまいました。


『はい……。ありがとうございます』


「どういたしまして!」


 お姉さんも笑顔になります。


 その笑顔は、マスターの笑顔とそっくりでした。

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