15-4

 しばらくして……。


『うっ……うう……』


「……落ち着いた?」


『すみません……。お見苦しいところを……』


 私は涙を止めてミカさんの方を見ました。



「気にしないで……。それより、落ち着いたみたいで良かった……。ねぇ、あなたの名前は?」


『名前……《ナナシ》です』


「えぇっ!!《ナナシ》!?本当に!?」


 ミカさんは驚いていました。


『はい……』


「もう、パパったら!女の子なんだから、もっと可愛い名前にしたら良かったのに!!」


 彼女は怒っていました。



「まぁいっか……。話は変わるけど……。あなたには、これからどうするか決めて欲しいの」


 ミカさんの言葉に首を傾げていると、「あのね」と彼女は説明を始めました。


「あなたは、ずっとここで暮らしていたんでしょう?……でも、心が目覚めたあなたには、1人きりは辛いと思うの……」


 私は黙って話を聞いていましたが、彼女の言葉に思わず反応してしまいました。


『1人……』


「……そう。それで、提案なんだけど……。あなた、私たちと暮らす気はない?」


 ミカさんの提案に、私は驚きました。

 彼女によると、今は母親と2人で住んでいるとのことでした。ミカさんの母親は、私の「お母さん」ということになります。


『えっ、でも……』


「もちろん、無理にとは言わないわ。でも、私たちはいつでも歓迎するから……。考えてみてくれないかな?」


 私は、彼女の目を見つめます。彼女の目は、まっすぐ私に向けられていました。


『……』


「……まぁ、すぐに決められることじゃないもんね……。ゆっくり考えればいいわ!」


 ミカさんはそう言って微笑みました。


「じゃあ、私はそろそろ帰るけど……。また来るから、それまでに返事を決めておいてね!」


『はい……』


「うん!それじゃ……」


 そう言うと、ミカさんは研究所から出ていきました。



 ……私はしばらく考えていました。


『私は、どうしたいのでしょうか……。自分の気持ちは……』


 ……マスターが亡くなってから、私はずっと1人で暮らしてきました。ミカさんの誘いを受けて、私は新しい生活を始めるべきなのですか……? 私にはわかりません。



 ……ただ、1つだけわかることがあります。

 それは、ここでの生活は「楽しかった」ということです。

 この研究所でマスターと過ごした時間は、私にとってかけがえのないものでした。


『……』


 私は、マスターの部屋に向かいました。

 この部屋に入ることは、マスターに「危ないから」と止められていました。

 でも、ミカさんから「整理は済んでるし、あなたに関係ありそうな物だけしか置いてないから」と言われ、入ることにしたのです。



『……!』


 ……部屋の机の上には、写真立てがありました。そこには、マスターと私が写っています。


『マスター……。私はこの場所に残りたいと思います。……でも、1人は寂しいです。だから……見守っていてください』



 私は写真を元に戻すと、マスターの部屋に背を向けました。

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