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 しばらくして、私は再起動しました。


「本当に、心臓が入ってなかったのね……。今まで、バッテリーで動いてたのかしら……?」


 私は、ミカさんが呟いている姿を捉えます。



 その時──


『…………!?!?』


 私の頭の中にある記憶が、急速に流れ込んできました。……自分の感情が、私の記憶を色づけていきます。


『うぅ……っ』


「ちょっと、大丈夫……!?」


 ミカさんの声を遠くに聞きながら、私は記憶に身を委ねました……



+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+


 ──マスターと初めて話した日。

 マスターはとても優しくて……私のことを「家族」だと言ってくれました。

 なんだかくすぐったいような、この時の気持ちは『照れくさい』……。



 文字が上手く書けなくて、モヤモヤするような気持ちは『悔しい』……。



 マスターの、よくわからないジョークを聞いた時の、頭の中が混乱するような気持ちは……『面白い』?それとも『つまらない』?



 私がやろうと思っていた花の水やりを、マスターがやってしまった時の気持ちは『怒り』……?

 そうですね、『残念な気持ち』も入っていたかもしれません……。



 着替えをしているマスターの姿を見てしまい、マスターの慌てたような顔を見た時の、顔に熱が集まっていくような感覚は『恥ずかしい』……。


 他にもたくさんの感情が、私の中に流れ込みました。



 ……その中でも多かったのは、『楽しい』と『嬉しい』でした。



 マスターと競走したり、研究所の近くを散歩したり、一緒に遊んだり……。そんな日々がとても楽しかったのです。



 それに、マスターはよく私の頭を撫でてくれました。私は、マスターに褒められると、とても嬉しかったのです。



 そして、マスターのことが大好きだったんです。この気持ちはきっと『恋』ではなくて、『親愛』とか、『友愛』といったものなのでしょう……。



 ……私は、マスターの笑顔が好きでした。

 私が何か失敗しても、成功しても、マスターは笑って頭を撫でてくれるから。


 私は、マスターと一緒に居られて幸せでした。ずっとこのままの生活が続けばいいと思っていました。



 ……でも、マスターはもういない。



 私は、マスターに会えなくなるのが怖くて仕方なかった。

 ……マスターに会いたい。また、あの優しい声で名前を呼んでほしい。頭を撫でてほしい。抱きしめて欲しい……。


 私は、マスターにもう一度会いたかった……。



 ……その時私は、心臓がギシギシと何かに締め付けられるような感覚になりました。


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『……い、痛いぃ……っ、うぅぅ……っ!!』


「えっ!?ちょっ……、どうしたのよ!!?」


 ミカさんは慌てたように声を上げました。

 ……私の心臓は、エラーを起こしたように痛みます。


『……うっ……ううううっ……!』


 ……私は、この気持ちの正体に気づいていました。

 ……この気持ちは『悲しい』……。

 私は、マスターにもう会えなくて『悲しい』のです……。


「もしかして、心が宿ったの……?」


 ミカさんが言った時………私の頬を、何かが伝いました。


『……?』


 それを止めようとしても、次々と溢れてきます。



「……!泣いているの……?」


 ミカさんの言う通り、それは涙と呼ばれる液体のようでした。


『うう……ぐすっ……』


「……おいで。私でよければ、受け止めてあげるわ……」


 ミカさんが両腕を広げます。


 ……私は今まで、泣くことが出来ませんでした。……でも今は違います。


 ……私は彼女の胸にすがりつき、声をあげて泣きました。



『うああああっ……!!マスター……っ!!マスター……っ!!!』


「よしよし……。あなたはこれまで、ずっと頑張ってきたのよね……。辛かったのに、よく耐えたね……」


『ひっ…ひっく……。うわあああん……』


「いっぱい泣けばいいわ……。今だけは、あなたの悲しみを全部吐き出して……」


『……ひっく……。……私……、寂しいです……。……マスターに、会いたいです……』


「そう……。……私も同じ気持ち……。パパに、また会いたい……。……でも、それは叶わない願いなんだよ……」



 ミカさんは私を抱き寄せて、背中をさすってくれました。


 ……彼女のぬくもりを感じました。

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