12

 私が生まれて12年目になりました。


 でも、マスターはいつも来る時間になっても現れません。……どうしたのでしょうか。



 それからしばらくして、マスターが来たのは、夜遅い時間でした。


「はぁ、はぁ……。ナナシ……遅れて、ごめんよ……。今日は、どうしても外せない用事があってね……。君の、誕生日だっていうのに……。はぁ、はぁ……」


 マスターはひどく汗をかいていました。急いで来てくれたのでしょうか。


「……よし。早速始めていくよ……!」


 マスターは作業を始めました。そして……。



「……よし!終わったよ。起動するね……」


 私は、マスターによって再起動しました。私は目を開きます。目の前には鏡がありました。


『!』


 鏡を見ると、綺麗なロングヘアーをした少女が映っていました。これが、私……?


「ナナシは女の子だからね。オシャレしないとね……」


『……そうなのですか』


「どうだい?」


『不思議です。自分の顔なのに、まるで別人のように感じられます』


「はは……。そうかい?」


『はい』


「……ナナシ、君は本当に成長したね」


 マスターは嬉しそうに言いました。でも、疲れた様子で息を吐いて、座り込んでしまいました。


「はぁ、はぁ……。……ふふ……、僕も歳だね。こんなに時間がかかるなんて……」


『問題ありません』


「……ありがとう」


 マスターは笑顔を見せてくれますが、やはりどこか辛そうです。


「……ナナシ、ちょっと待っててくれ。髪飾りを取ってくるから」


『はい』


 マスターはフラフラと部屋を出て行きました。

 ……数分後、マスターが戻ってきました。



「……よし、できたよ」


 マスターは私の髪を触りました。そこには、小さな花の形をした髪留めが付けられています。


「うん。似合ってるよ」


『ありがとうございます』


「はは……どういたしまして」


 マスターは微笑んでいました。



「……それじゃあ、また時間ができたら会いに来るよ。おやすみ……」


『お待ちしております』


 マスターは立ち上がりますが……。とても危ない足取りです……。


「はは……。じゃあ、行ってくるよ……」


『お気をつけてください』



「……あぁ、わかったよ。……君に会えて良かったよ、ナナシ……!」


 最後に一言残し、マスターは研究所を出て行きました。




 ……しかし、この年はこの日以降、マスターが再び研究所に来ることはありませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る