9

 わたしが生まれて9年目になりました。


 研究所でマスターが来るのを待っていると、外から車の音が聞こえました。マスターの車でしょうか。

 しばらくして、研究所の扉が開きました。マスターが来てくれたようです。


「やあ、ナナシ!久しぶり!」


『お待ちしておりました、マスター』


「おぉ……?なんだか、少し大人びた気がするな……?」


『そうでしょうか』


 わたしは、あまり変わらないと思いましたが、マスターが言うならそうなのでしょう。



 この頃になると、マスターはほとんどの時間を大学の研究室で過ごすようになり、この研究所に来ることも1ヶ月に一度あるかどうかという状態でした。


「ごめんよ、ナナシ……!なかなか時間が作れなくて……」


『問題ありません』


「……君は、本当に優しい子だな……」


 マスターは嬉しそうな顔で言いました。



「今年は鼻のグレードアップをしようと思ったんだ。いいかな?ナナシ」


『はい』


「よし!じゃあ、早速始めていくぞ……!まずは、一旦スリープモードにして……」


 マスターは作業を進めていきます。そして……。



「よし!これでオッケーだ!起動させてみるぞ!」


『はい』


 わたしは再び目を覚ましました。


「どうだ!?何か変化があったかい?」


 ……いろいろな匂いが感じられるようになりました。わたしは、マスターの方を向いて答えました。


『嗅覚センサーの性能が向上しているようです』


「おおっ!!すごいじゃないか!!」


 マスターは喜んでくれました。


「じゃあさ、ちょっと外に出てみないか?」


『良いのですか……?』


 ……外。わたしはこれまで、研究所の中にしかいられませんでした。

 マスターからは、「君が外に出るには、もう少し待ってほしい」と言われていました。


「もちろんさ。僕も一緒についていくから……!」


『……ありがとうございます』



 わたしは、マスターと一緒に研究所を出て、初めて外の空気に触れました。わたしの知らない匂いがします。


「……どうだい?」


『不思議な感覚です。頭がクラクラするような……』


「ははは……。最初はそんな感じかもしれないね。大丈夫……?」


『はい』


 わたしは、ゆっくりと深呼吸をしてみました。


『不思議です。頭の中のモヤが晴れていくような気がします……』


「そうか。それは良かった!」


『マスター、これは何の香りですか』


「うん?あぁ、それはね……」



 それから、わたしたちは研究所の周りを散歩しながら、いろんなことを話しました。

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