6

 6年目になると、マスターは忙しいようで、あまり会えなくなりました。


 マスターによると、とある大学の教授として働くようになったようです。


「教授って言っても、まだ下っ端の下っぱなんだけどね……」と、マスターは笑いながら教えてくれたことがありました。



「ごめんよ……ナナシ。本当は、毎日会いたいところなんだけど……研究とか論文の提出で、なかなか時間が作れなくて……」


 そう言いつつも、わたしの誕生日には研究所に来てくれました。



「今年は右耳のパーツにしてみたけど、どうだい?」


『はい、問題ありません』


「そうか、良かった……!それじゃあ、早速付け替えよう!」


『ハイ』


 マスターは、いつものように手際よく付け替えを行いました。


「どうだい?何か違和感は無いかい……?」


『いえ、大丈夫です』


 マスターの声が、少し聞き取りやすくなった気がします。でも、声に混ざって違う音が聞こえます。



 ……この音は何でしょうか。マスターから聞こえてきます。わたしは、マスターに近づいて、音を確かめようと思いました。


「……ナナシ?どうしたんだい?」


『……』


 わたしは、右耳をマスターの胸に近づけました。

 ……トクントクンと音がします。何の音でしょうか。


「おぉ……!?ど、どうしたのかな……?」


 マスターは少し驚いていました。でも、嫌そうな顔はしていません。



『マスター、これはなんという音ですか?わたしは知りたいです』


「あー、これは心臓の音かな……」


『心臓の音……?』


 不思議に思っていると、マスターは教えてくれました。


「人間には心臓があってね、これで命を繋いでいるんだよ。ナナシにはまだ無かったっけ……」


『……?』


「早く君にも心臓を作って、心を宿してあげたいな……」


『……?』


「あー、ごめんごめん!今のは独り言さ!」


 マスターは、慌てた様子を見せました。



『マスター、質問があります』


「ん……?」


『人間は、なぜ生きているのでしょう』


「うぅむ……。難しいね……。僕はこう思うよ。生きる意味を見つけるために生きてるんじゃないかなって……。その人が生きた証を残すためなのかもね」


『……?』


「僕の生きる意味は、君を作ることだった。君が生まれて、君が成長してくれている。それが、僕にとっての生きがいさ!」


『……』


「君は、僕の夢そのものさ……。僕が作った、僕だけの夢のカタチ……。ナナシがいてくれるだけで、僕はとても幸せな気分になれるんだよ」



『わたしは、マスターの夢……。』


 わたしは、マスターに言われたことを頭の中で繰り返しました。


『わたしは、わたしの役割は……』

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