二日目朝「すんすん……すっはぃにほひするぅ」

/アラーム音


波矢

「んー朝ぁ?」


紗矢

「……ぅ、んんっ」


波矢

「うぅ……苦しいし暑い」


波矢

「……ぇ、な、どういう状況なのこれ?」


紗矢

「……んー」


/モゾモゾ、ベッドの上で動く音


波矢

「んんっ!? んーっ!」


紗矢

「……ふ、ぅ」


波矢

「――っ、さ、紗矢ちゃ、わたしの頭を、抱きかかえるの、やめっ」


紗矢

「?」


波矢

「はぁ、はぁっ、顔がおっぱいに包まれるのは嬉しいけど加減してくれないと苦しいから……あ、すごくいい匂いする……すんすん」


紗矢

「……まふららしゃへったぁ」


波矢

「あの、紗矢ちゃん? あ、やだぁっ」


紗矢

「ぎゅー」


波矢

「あっ、力強いよ……ぅ、腕ごと抱きしめられて動けない……」


紗矢

「ぅ、ん」


波矢

「待って待ってっ、シャツの中に手を入れないで、わたし寝汗酷いから駄目だってばぁっ」


紗矢

「すんすん……すっはぃにほひするぅ」


波矢

「っ」


紗矢

「あしぇくしゃい」


波矢

「嫌ぁっ! 嗅がないでいいからぁっ! 汗臭いのは自分でもわかってるからぁ。ね、ねえ寝ぼけてないで起きてよ紗矢ちゃん!」


紗矢

「むぎゅー」


波矢

「くんくん…………紗矢ちゃんも汗かいてるはずなのにいい匂いしてるのずるくないかな?」


紗矢

「んー」


波矢

「ど、どうして脚の間に膝を割り込ませようとしてるのかなぁ――っ!?」


紗矢

「……?」


波矢

「こ、これだけ力入れれば動かないよね? 紗矢ちゃんの膝がこれ以上あがって来るとあ、当たっちゃう……さ、流石のわたしでも、そこは触ろうとはしないんだからさぁ」


波矢

「……自分では触ろうとしてないけれど、事故が起きちゃったことは結構あるから強くは言えないかぁ……昨日だって脚絡めに行ったときとか一瞬も当たってないなんて言い切れないからお互い様になっちゃうのかな……これに関しては」


紗矢

「……むにゃ」


波矢

「あーもうっ! わたしより寝ぼけた紗矢ちゃんの方が絶対にたちが悪いって! 起こそうにも腕使えないし……頭突きでいいよね? いい加減に起きてよぉっ」


/ゴンっと鈍い音


波矢    紗矢

 「痛っ!」「――いっ!?!?」


波矢

「ふぁあ!?」


紗矢

「けほっ、けほっ、胸が痛い……」


波矢

「ぅぅ、膝がモロに……今の声聞かれてないよね?」


紗矢

「――あれ、波矢?」


波矢

「……紗矢ちゃん」


紗矢

「もしかして起こしてくれた?」


波矢

「うん」


紗矢

「って近っ……そういえば同じベッドで寝たんだっけ」 


波矢

「そうだねぇ、同じベッドで寝たよねぇ」


紗矢

「……えっと、なんか怒ってる?」


波矢

「怒ってないから。起きたなら離して欲しいかなぁなんて」


紗矢

「…………あ」


波矢

「ふぅ……どういう状況なのか理解してくれたかなぁ?」


紗矢

「私ってば波矢のこと抱きまくらにしちゃってた?」


波矢

「うん、アラームが鳴ってからだったけど、腕ごと拘束されて動けなかったんだよ? やっぱりわたしの予想が当たったね」


紗矢

「……え、私……他になにかやらかしたわけ? あんた、抱きまくらにしたくらいじゃ怒るどころか喜ぶ側じゃない」


波矢

「?」


紗矢

「小首を傾げてるけど可愛さよりも怒りが伝わってくるのよ、あんたのそれ」


波矢

「わたしは別に怒ってないけど、膝の位置を変えてほしいかなぁっとは思ってるよ?」


紗矢

「膝? 感覚的にあんたの脚の間――あ」


波矢

「――あん」


紗矢

「……察したわ。察したけれど、これも波矢が怒ってる理由じゃないわよね? これで怒ってたら普段のあんたは一体何なんだって話になっちゃうもの」


波矢

「紗矢ちゃん、わたしのニオイ嗅いで『すっはぃにほひするぅ』って言ったんだよぉ! 汗臭いって!」


紗矢

「あ……それはごめん……記憶に無いけど謝っとくわ」


波矢

「紗矢ちゃんだから……まぁ、許すけどぉ……」


紗矢

「やらかしたの私だし、言いたいことあるなら正直にどうぞ」


波矢

「汗というかニオイに関してなんだけど……紗矢ちゃんも、普通に寝汗かいてるよね?」


紗矢

「そりゃもちろん。この時期に汗をかかない方がおかしいでしょ。合宿場の部屋にはエアコンないし」


波矢

「一応、ここ避暑地だからねぇ。昨日の夜も窓を開けてれば涼しかったもんね」


紗矢

「部屋の中はね。ベッドは夏掛けとはいえ二人だと暑かったけど」


波矢

「紗矢ちゃんって何で汗かいててもいい匂いするの?」


紗矢

「……は?」


波矢

「くんくん」


紗矢

「ちょっ、よりによって胸元のニオイを嗅ぐとか信じられないんだけど!」


波矢

「だってこの体勢だと仕方ないと思うよ? そもそも、わたしの頭を抱きかかえておっぱいに押し付けてたの紗矢ちゃんだからね?」


紗矢

「だーっ、自分自身の寝相が恨めしいっ、どうしてなんでもかんでも抱きついちゃうのよ私ってば」


波矢

「紗矢ちゃん起こしに行くと、確実に抱きまくらか掛け布団か毛布のどれかをぎゅーってしてるもんね」


紗矢

「……だから他人と同じベッドで寝るとか嫌なのよ。高確率で抱きついちゃうから」


波矢

「あれ? てっきりわたしが相手だから嫌がってるんだと思ってたんだけど違うの?」


紗矢

「もちろん、あんたと一緒のベッドとか嫌に決まってるじゃない。何回も言ってるでしょうが……でも、嫌な選択肢の中ではマシな方っていうか――そういう波矢だって、自分が暑がりで汗っかきなの気にしてるくせによく私と同じベッドで寝られるわね?」


波矢

「暑がりなのは生まれつきだもん、どうしようもないよぉ」


紗矢

「大変ねぇ」


波矢

「紗矢ちゃんの抱きつき癖も似たようなものだと思うなぁ」


紗矢

「私のは自覚あるけれど無意識だから」


波矢

「それ言っちゃったらわたしもコントロールできないよぉ」


紗矢

「……まぁね」


波矢

「質問の答えだけど紗矢ちゃんは汗まみれのわたしのことを嫌がらないでいてくれるって信頼感あるから一緒に寝るのも全然大丈夫っ!」


紗矢

「あーそういう……」


波矢

「それにベッドの中に限れば、どちらかというとわたしよりも紗矢ちゃんの方からスキンシップ取ってくれるから嬉しいもん」


紗矢

「取ってないから。事故だから」


波矢

「間違いなく起きることがわかってるのに、お互いに納得しちゃって避けようとしない事故だよねぇ」


紗矢

「知らない」


波矢

「またまたぁ」


紗矢

「この幼馴染はさっきまで不機嫌だったくせに、随分とニヤニヤするじゃないの」


波矢

「そういうわたしの幼馴染は随分とホッとした表情だけどなぁ」


紗矢

「っ」


波矢

「寝ぼけてたとはいえ、わたしに汗臭いって言って傷つけちゃったかもって心配してたもんね」


紗矢

「……ごめんなさい」


波矢

「あっ、違うからっ! ビックリしたけど怒ってるわけじゃないよ?」


紗矢

「そうなの?」


波矢

「わたし言ったよ? 許すけどぉって」


紗矢

「……あー確かに言ってたわ」


波矢

「安心した?」


紗矢

「うっさい」


波矢

「わたしが紗矢ちゃんのことを嫌いになるなんてないから安心してね?」


紗矢

「うっさい! 誰もそんなこと気にしてるなんて言ってないでしょうが」


波矢

「うんうん、そだねー」


紗矢

「……さ、いつまでもアホなこと言ってないで。いい加減起きた起きた。顔洗って、食堂に朝ごはん食べに行きましょ」


波矢

「うわー、話題転換が露骨すぎだよぉ」


紗矢

「幼馴染なら乗りなさいよ」


波矢

「紗矢ちゃん」


紗矢

「……なによ?」


波矢

「今日も同じベッドで寝ようね?」


紗矢

「知らない」


波矢

「素直じゃないなぁ」


紗矢

「素直なつもりよ」


波矢

「すぐ表情に出るもんね」


/デコピン音


波矢

「いだっ!? デコピンは酷くない!?」


紗矢

「ほら、起きた起きた」


波矢

「あ、そうだ……紗矢ちゃん」


紗矢

「ん?」


波矢

「おはよう」


紗矢

「あぁ……そういえばまだ言ってなかったわ、おはよ、波矢」


波矢

「今日も合宿頑張ろうね」


紗矢

「ええ、そうね」


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