第17話:【交流・常連客】①

 開店時間が近づき入り口の準備中の札を外す。


 カウンターの上で抽出されているコーヒーや保冷ケースの中のケーキを珍しそうに彼女は眺める。


「ケーキも自分のところで作っている店もあるけど俺は作れ無いから咲華の働いている店から仕入れているんだ。気になるケーキはある?」


 今日のケーキはチーズタルト、苺のショートケーキ、チョコレートケーキの三種類。


『これが気になります』


 生クリームがふんだんに使われた苺のショートケーキを指差す。ショートケーキとチーズタルトを一つづつ持ち帰り用の箱に移す。


「裏の冷蔵庫に入れて置いてくれ、後で食べよう。出している物の味がわかった方が良いだろう」


 からん、からん、と音をたて本日最初のお客さんが入って来る。


「亮ちゃん、いるかい?」


 常連さんがやってくる。


「いらっしゃい、くるわさん。いつもの席、空いてますよ」


「いらっしゃいませ」


 イシェリカもちゃんと挨拶ができた事に内心ホッとする。


「おや、可愛い子が入ったねぇ。亮ちゃんの嫁さんかい」


「揶揄わないで下さいよぉ、遠縁の娘でホームステイで暫くうちに居ます。まぁ社会見学を兼ねて店を手伝いながら日本語を勉強しているところです。まだ挨拶を覚えたくらいなんで受け答えは出来ませんけど宜しくお願いします」


「こちらは郭さん。常連さんで俺の釣りの師匠だよ」


「亮ちゃん、日本語以外ダメだと思ったら便利な物を使っているんだねぇ」


 イシェリカが手にしたスマホを見て察する。


 郭さんは齢七十を超えて俺よりスマホを使いこなす。


「いつもので良いですか?」


「おぅ」


 郭さんはホットコーヒーをいつも頼む。


 コーヒーを淹れていると郭さんが話しかけてきた。


キスが釣れ始めたよ、まだ数はポツポツだけどなぁ」


 これは次の休みにどうだというお誘いだ。師匠の誘いを断れる筈も無く。


「良いですね。天麩羅食いたいですし、次の休みに行きますか?」


 陰で『やる気の無い店』と言われているようにうちは二日働いて一日休み三日働いて一日休みの水曜、日曜が定休日である。まぁ、この間は土曜日にも休んだのだけれど。


 郭さんと約束取り付けた後、他の常連さんもやって来て同じようなやり取りを繰り返す。


====================================


18:00に第18話:【交流・常連客】②を投稿します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る