第11話:【閑話・カトラスに訪れる災難】

 イシェリカが行方不明となってから三日が過ぎようとしていた。探索に同行していた他の人員は全員戻っているのにイシェリカだけが戻っていない。同行したシエルとレナリスは『最奥で光に包まれた後、イシェリカだけが居なくなった』と言い続けている。その場には彼女たち三人しかおらず真偽は不明。


 ただ普段からシエルがイシェリカを非難するような言動をとっていた事を周りの者は見聞きしている。そんな中、イシェリカだけが戻って来ない。対応を謝ればパーティーが信用を失う。


 手荒ながらカトラスを救ってくれたのはイシェリカだと思う。シエルに治癒技術は無い。


 探索途中に起きた事、何が起きたかは当事者にしか分からない。シエルとレナリスに問うても同じ返答しか返って来ない。


 イシェリカの失踪から二週間が経過した頃、俺は独自に捜索を行いたいとギルドに申請を出していたのだが、『角鼠の発生原因が分からない為、出入りを禁じている』と聞き入れてもらえない。


 シエルに至っては『きっと私達を置いてどっかに行ったんだよ。酷いよね』等と言って捜索に反対している。レナリスは『私は彼女の事はよく知らない』と彼女も何方どちらかと言うと非協力的、トレールは戻ってくるなりイシェリカの不在に激昂げきこうしていたのが嘘の様にシエルの意見に同調している。それにあの二人の距離感がなんか近い。


 以前のシエルは俺との距離感が近すぎる様に感じる程人懐っこくて、俺が勘違い(性的な意味で)して一線を超えない様にと意識していたというのに…


 いや、それよりイシェリカの捜索だ。律儀にパーティを離れる事を事前に告げる奴が何も言わずに何処かに行くと考える方がおかしい。せめて遺品の回収ぐらいはしてやりたい。


 そう、俺もイシェリカの生存は見込めないと思っている。持ち込んだ食糧は既に無くなっているだろうし、あそこに食いつなげるものがあるとは思えない。最後を確認してやるのもリーダーとしての義務なのだ。そう自分に言い聞かせながら今日もギルドの扉を開ける。


 ギルドの中はいつもと違い、静まり返っている上に思わず後ずさってしまう程の緊張感に包まれていた。俺も踏み出した足を引き戻し立ち去ろうときびすを返す。その背中にギルド支部長の鋭い声が突き刺さる。


「カトラス、丁度良かった。こっちへ来い」


 冷や汗が吹き出すほどの異様な雰囲気の中俺は渋々中へ入る。


「支部長、俺に何の様ですか…」


 張り詰めた雰囲気の原因とも言える人物の方は見ない。俺の直感が、関わるなと全力で告げている。


「そちらの方にイシェリカさんの事を説明しろ」


「えっ」


「早くしろ」


「あ、はい…」


 厄介事に向き合う。身長はイシェリカと同じくらい。髪色は白、瞳は緋色、顔立ちは不自然な程に整っているが美人とは思えない。印象が鋭すぎる。肌は異様なほどに白い。色素が抜け落ちたと言えば良いのだろうか。


「カトラスと言います。」


「マーナルです」


「イシェリカさんには命を助けて頂きました。角鼠…」


 ちらりと支部長を確認するが止めてこない。言っていいのか?それなら続けるぞ。


「角鼠が発生している洞窟を探査に行った際、私は毒を受け彼女に助けられました(私見)。その後ギルド主導で捜索が行われましたが、私は怪我の為参加していません。パーティからイシェリカさんの他に二名参加しました。報告では最奥で光に包まれ、気が付けば彼女だけがいなかったそうです。再調査を申請しているのですが許可がおりません」


 俺の言葉に支部長は余計な事を言うなと言いたそうだったが、それどころでは無い殺気がマーナルさんから放たれる。


 正直、帰りたい…本気で喉元を刃物で貫かれたと錯覚したわ…


「許可を貰えますか」


 いや、マーナルさん、貴方、丁寧に言ってますけど有無を言わさぬ雰囲気ですね。ほら、支部長の腰が引けてるよ。あの人、結構豪胆なのにそれどころじゃ無いみたい…


「あ、ああ、分かった、許可を出そう」


「有難うございます」


 あ、殺気が引いた。


 支部長を竦みあがらすってこの人何もんだ…


「後の案内はこの男が致しますので」


「えっ」


「では、案内を」


「あ、はい」


 くそ、後で文句言ってやる。


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イシェリカのいなくなった後の話を閑話として入れてみました。

楽しんで頂ければ幸いです。

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