第7話:【言葉の通じない女性を拾う】④

 私は隣で眠る男性の眺め、素性の知れない者の隣で無警戒に眠れるものだと思う。危害を加えられない限り此方から危害を加えるつもりもないが野営中に盗賊や獣に襲われる事を考えていない様な行動に見える。


(食事と寝具を与えられた手前、夜半までは当直を受け持ちましょう)


 現在いる地域では多少山間部に入っていっても余程運が悪くない限り猪に出会う事もなく、男性が今日、狐を見かけた事でさえ非常に稀な事であった。


 実際にはイシェリカが警戒する様な者が出てくる事はないのだが、彼女の育って来た世界では野営時に夜襲に備えることは当たり前の事であり、男性の対応に困惑していた。


(言葉が通じないのは困りましたね。これでは此処が何処なのかも分かりませんね。異言語翻訳魔法を唱えた際の感覚では魔力不足を感じましたし、意識を無くしていた様なので信じ難い事ですが魔力欠乏状態に陥っていたのだと考えるのが妥当ですね)


 本来の彼女の魔力量は並ぶ者がいないと言われるほどであり、成人して以降は魔力欠乏状態になることは一度もなかった。自身に流れる魔力に意識を向けてみるも殆ど回復した様には見えない。


(此処まで回復が遅いという事はこの辺りの魔力濃度が感じているままに少ないという事なのでしょうね…問題はこの場所の魔力が少ないのか、それとも見た事のない道具や服装、言葉が通じない事を考えると別の世界に渡ってしまったか…元の世界と比較すると魔力量の少ない世界なのかも知れませんね)


 せめて異言語翻訳魔法を唱えられる程度の魔力が回復してくれれば男性から此方の事を聞くことが出来るのにと、どうにもならない事に思いをせ、ため息がこぼれる。


 魔力不足と自身の置かれている状況がわからず張り詰めていたものがため息と共にほぐれてしまいイシェリカは岩に背を預けうとうととし始め遂には微睡まどろみ意識を手放してしまった。

◇ ◇ ◇

 二人が眠ってから暫くして、もたれている岩の上に一頭の狐が姿を表した。

狐は一鳴きすると岩の中央で姿を消し、その際に周囲が霧に包まれた…

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