第6話:【言葉の通じない女性を拾う】③

 イシェリカが目を覚ました時点までさかのぼり、瀧口亮司たきぐちりょうじの方はというと。


『ぐぅ』という音にそちらを向くとこちらを向き恥ずかしそうにしている女性が目に入る。


(此処は腹の音には触れない様にして)「あっ、気がついたんだ。体の具合は問題ないですか?」


 何事もなかった様に振る舞いつつ声をかける、が、同時に女性の発した言葉が全く分からなかった。脳内で瞬時に、ありえないくらいに整った顔立ちに紅い瞳、夕陽を受けて輝くプラチナブロンドのロングヘア、極め付けに全く分からん言葉と来ればお約束の異世界転生かと思い微妙な気持ちになる。


(俺、死んでないよな。変な所に迷い込んだとも思えないし、目に映る植生は見知ったものだし、立ち昇った光から考えると向こうが転生、いや、転移して来たんだろうな。しっかし、言葉が通じないのはどうしたもんかねぇ)


 女性も困惑した表情で此方こちらを見ており視線が交わる。


 あり得ない程美しいその容姿に見入ってしまいそうになった時に『ぐぅ』という音が鳴り体は正直に空腹を訴えて来た。


 女性を手招きし焼いていたもう一匹のアマゴを差し出す。何かを言って来た様だが言葉が分からんので首を傾げる。


(上品な身形みなりの女性だし、食べ方がわからんのかなぁ)


 最初に手にしていた分を口に運び、改めて差し出すと女性は受け取りアマゴの塩焼きを口に含んだ。口元に手を添え美味しそうに食べている。


 そんな女性を眺めていると気がついた時には自分の分を食べきっていた。


(お互い一匹じゃあ足りそうにないなぁ、残りも焼いておくか)


 幸いな事に今日は四匹のアマゴが釣れていた、下処理は釣り上げてすぐに済ませてある。周りの者達の大半は気にしていないのだが、いつの頃からか俺は活き締め、血抜き、内臓を取り除いておかないと美味しく食べられなくなってしまった。当然、スーパーの刺身も美味しく頂く事は出来なくなってしまっている。


 二匹目も焼き上がり二人で美味しく頂く。


 焚き火に薪を追加し、リュックの中から断熱材に使っているアルミシートとマイクロフリースのブランケットを取り出す。アルミシートを敷きブランケットを掛ける仕草をして見せる。


 アルミシートとブランケットを女性に渡し、岩を背に目を閉じたのだが戻されてしまった。その後もやり取りがあったのだが、最終的にアルミシートの両端りょうはしに分かれ俺はレインウエアを羽織る。女性との間にリュックを置き、ブランケットを使ってもらう事に成功した。


 そして色んな事があり疲れていた俺は程なくして眠りに落ちていた。

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