第1話:【プロローグ・side:瀧口亮司】

 五月の最初の定休日に俺、瀧口亮司たきぐちりょうじは久しぶりにアマゴを釣りに出かける事にした。


 高卒で就職した俺だが体調を崩し勤めていた会社を辞め三年前に祖父の元へと引っ越して来た。それからは祖父の営んでいた喫茶店を手伝っていたのだがその祖父も去年から施設に入居する事になり俺が店を継ぐ事にした。まぁ、周りの人の助けもありなんとかなっている。


 いつもは俺の住む町を流れる川の上流に行くのだが今日は気分を変えて東部の河川に向かう事にした。学生の頃、夏休みに祖父の家に暫く泊った際に自転車で二時間くらい掛けてこの川の上流のダムにルアー釣りに行っていた。その時に支流にアマゴがいると聞いてルアーを投げていた。時々釣れる程度だったけどね。


 事前に遊漁券は購入している。ただ、頻繁に訪れる川では無いので割高ではあるが一日券にした。その川に期間中に三回以上通うのであれば年券を買った方が割安だ。まぁ、今回の釣れ方によっては次回からの候補に入れても良いとは考えている。


 午前四時、道具をワゴ○Rに載せ釣りに出かける。途中コンビニに寄りペットボトル飲料とおにぎりを二個購入する。


 午前五時過ぎに目的の川の中流域に立ち寄り餌の川虫を採集して行く。これは中流域の方が餌になる川虫が多いと教えられたのでそうしている。確かに上流よりは多い気がするが、餌が無くなれば上流でも採集はしている。面倒に思う人は餌用のイクラやブドウ虫を購入して行っているから無理に採集をする必要は無いのだがこれも一つの楽しみだ。


 採集を終え上流に向け暫く車を走らせる。国道から脇にそれ車を停め、沢に入る用意を始める。防水ソックス、地下足袋じかたびに履き替え、腰に剣鉈を吊るす。荷物の入ったリュックを背負うと上流に向け沢伝いに暫く歩く。


 開けた場所が見えてきたのでそこで竿を出し準備をする事にした。


 川面を眺め少し大きな岩により流れのよれている所に餌が入る様に仕掛けを送り込む。アマゴはある程度、定位で餌が流れてくるのを待ち構えている為いると思う所に餌を流し釣れなければ次のポイントへ移動を繰り返していく事になる。


 流れのよれている所に仕掛けが入った。直ぐに糸が走り目印にアタリが出る。少しの抵抗を見せるが程なくしてアマゴが姿を表す。青紫の斑紋、小さな朱点が美しい魚体をタモ網で掬う。幸先良く一投目から釣れたが、俺の場合は一投目に釣れると後が続かないという経験が多い為素直に喜べない。釣れたアマゴをビクに入れ新しい餌を付ける。まぁ、気を引き締めて二投目を投入しよう。しかし、アタリが続く事はなく同じ様な条件の所を探して川を釣り登って行くが続かない。


 気分を変えようと別の支流に入り直す事にした。二本目の支流で一尾追加出来たが此処は沢自体が短い為直ぐに次の支流に移動する。今度の支流は今迄入った事がないので探検をしている様で少し高揚する。そうして数尾のアマゴを追加しつつ水分補給の為木陰で休憩を取る事にした…

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