第4話 月乃瀬さん②



「……そ、その、宮河さんは今……好きな人とかいるのでしょうか」


 

 何をアドバイスすればいいか考えている俺に月乃瀬さんがそう問いかけてきた。

 と同時に月乃瀬さんのことばっかり聞いてて一方的だったと気付いた。なるほど、どうやら気を使わせてしまったようだ。



 「うーん……居ないかな。でも興味はあるよ!」


 「そ、そうなんですか……ボソボソ……よかった……ボソボソ……まだ私にもチャンスが……」



 面食いだったせいで彼女とか居たことないからな!

 何でだろう涙が……。

 

 

 正直に言えば彼女は欲しいけど……それよりも折角美少女だらけの世界に来たんだから色んな女の子と遊びたいのが本音だろうか。

 この考えが良くないってことは普通に考えればわかるけど……欲求には逆らえないし。

 それに男女の貞操観念が逆転してるんだから女子の性欲は強いはず。つまり俺は――――



 ――――セフレがほしい!!

 


 セフレが欲しいんだ!

 この、前世からの未解消の欲求を……思う存分発散したいんだよ!!

 やることやるだけの相手が欲しかったんだ!都合のいい相手が欲しかったんだ!! No彼女Yesセフレ!! うおおおおおおおおおおぉぉ!!!

 

 

 ――取り乱したな。



 さて、俺は今自分の本当のやりたいことに気づいたわけだが……やはりこれを聞かねばなるまい。

 


  ――俺の顔って実際の所どうなの?



 たとえ不細工だとしても聞かねばなるまい。

 何しろ自分のことを正確に把握しないと大変なことになるからな。不細工なのに自分のことイケメンだと勘違いして……おしゃれして……ナンパして……痛い人間だけにはなりたくない!! 

  


 「あのさ!月乃瀬さん……できれば正直に答えてほしいんだけどさ……俺の顔ってイケメンなのか不細工なのかどっちの部類か教えてほしいな……いや、答えずらい質問なのは分かっているんだけど、こんなこと聞けるの月ケ瀬さんくらいで……その、別にどう言われても気にしないし、何て言うか、逆に客観的な意見が欲しいって言うか……勘違いしてたらその認識を直したいって言うか……本当に嫌な役をさせると思うんだけど――」


 

 今までは現実を見たくないがために敢えて深く考えてこなかったが、先ほどの一目惚れの話にあるように人間関係と顔は切っても切れない関係なのだ。つまり自分の顔のレベルを自覚しないとな計画を実行することは不可能ということだ。

 

 

 「――ですよ」


 「え?ごめんもう一回――」


 「カッコいいですよ!!!」


 

 なに?!カッコいいだと俺が?!

 そんなことあるのか?そんな都合のいいことが! 特に善行積んだわけでもないよ!?

 

  確かに自分ではカッコいいと思ってるけど……これは俺の感性がずれているだけだろうし。


 

 ――月乃瀬さんもしかして俺に気を遣って?


 

 いや……真剣に頼んだんだ彼女はそんなことしないだろう。そんな人じゃない。

 彼女の性格は今日話してみて俺自身わかっているはずだ。

 

 

 ――つまりはそういうことなのだろう。


 

 不細工なのは嫌だけどイケメンなのもそれはそれで慣れないが…………恥ずかしいな。

 


 「え、えっと! なんか恥ずかしいね……でもありが――」


 「――― 自覚がないなら何度でも言います!宮河さんはカッコいいです! 」


 

 美少女に直接カッコいいって言われた……。

 て、照れくさいじゃんかそんなの! でもありが――

 

 

 「――どのくらいカッコいいかと言うと男性モデルや俳優なんか目じゃないほどカッコいいです! 例えるなら百年、いや千年に一度の美少年!いや、国宝級イケメンと言うべきでしょうか!!  え?それは月乃瀬さんの価値観だからじゃないかって? そんなことはありません!イケメンは誰にとってもイケメンなんですよ!そこに異論は認めません! 信じられないと思うなら試しにSNSに写真を投稿してみてください!直ぐにわかりますよ! それにもしかしたら、いえ恐らく100%の確率で芸能界からスカウト来ますよ!! わかりましたか!!」


「わかりましたごめんなさい!!」



 え、誰?! この人本当に月乃瀬さんなの?! キャラ変わってない……?

 もしかして何か彼女の琴線に触れるような発言をしてしまったのだろうか俺は……?



「す、すいません……取り乱しました」


「あ、いやこっちこそ! 何かごめんね……」


「……い、いえいえこちらこそ!」


「……」


「……」



 何とも言えない空気が流れてしまった。

 陽キャならどうやってこの空気を無くすのだろうか……ぜひご指導のほどよろしくお願いしたいものだ。

 

 ――ま、まあけどどうやら俺はイケメン!! それもかなりのイケメンだという事が分かった! なら気にしないで行こう!イケメンは何してもイケメンという言葉もあるしな!

 

 ありがとう月乃瀬さん。そしてごめんなさい……キャラ崩壊させてしまって。

 


 「と、とにかく……ありがとう月乃瀬さん。褒めてもらって自信付いたよ!」



 先ほどの勢いにはびっくりしたけどおかげで俺の顔について知ることができたし自信が付いたのも事実だ。

 ありがとう月乃瀬さん。君のことは忘れないよ。

 

 

 「そ、それならよかったです……はい」


 「……」


 「……」

 

 

  うーん……そろそろ長居になるし帰るとするか。美少女が一人暮らししている部屋を離れるのは悲しいけどね。

  ――ごめんなさい、この空気はちょっとやそっとで直すことは無理そうなんだ。戦略的撤退をすることにするよ。

  


 「あ、じゃあそろそろ帰るよ。……今日は本当にありがとう!色々助かったよ!」


 「あ……い、いえ!こちらこそ!また何時でも来てください!」


 「うん!ありがとう!今度は俺の家に呼ぶね!」


 「え?! ほ、本当ですか!? 嬉しいです!楽しみにしてます!!」



 そう会話をしながら俺たちは玄関まで来た。

 名残惜しいが住んでいるのは隣の部屋だ。また次の機会を待とう。

 それにしても……簡単に美少女を家に呼べるなんて本当にイケメンはチートだな!



 「じゃあ今日は本当にありがとう!またね!」


 「はい!また来てくださいね!」



  月乃瀬さんはわざわざ外まで来て見送ってくれた。

  うん、いい。幸せだ。彼女がいるのってこういう感じなんだろうか?


 

  ――ここまで助けて貰ったんだ。何かお礼をしないとな。

 


  俺がされてうれしい事はもちろん美少女からの何かしらのアプローチだ。前世では一度も機会が無かったが。

  そしてこの世界は男女の貞操観念が逆転している。

  そして俺は月乃瀬さん曰くめちゃくちゃイケメンだと来た。



  ――あれしかないな。

 


  俺は直ぐさま振り返ると月乃瀬さんの方へ近づいていく。

  そして――


 


 「――これからもよろしくね!」



 

  そう笑顔を向けをした。

 




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