#02 Oficejo de Rektoro kaj Klaso 1-A

 教学ビルの赤い玄関には、白い文字が書かれている。

 Universität Tendou angeschlossene Schule。

 UTAS駅学校の駅に降り立った後、エスカレーターに乗って歩道橋まで登る。そこで学生証をかざして自動改札機を通過し、歩道橋の端から端まで歩いてきた僕は、このドイツ語らしい文字列を眺めている。

 スマホの画面での時間は、6時15分。

 あの女は昨日、6時30分まで校長室に着くと指示した。この前に一度連れて行ったが、僕が位置情報をはっきり覚えていなかったので、あの女はLINIEで部屋番号を送ってくれた。具体的なルートを発送しなかったのは、僕が校長室を正しく見つけられると思うだろう。

 開けているガラスのゲートを抜けて、ホールHalleと繋がる通路に入った。壁に張った案内板でルートを確認した僕は、脇のエレベーターに向かって、上へのボタンを押す。


「これは、母さんからのプレゼントです。どうかお納めください」

「何の話してるのかい、まさ君。この学校がこのようなポジティブな雰囲気に包まれることができるのは、君の母さんのおかげだ。二十年以上に経っても、『黒の生徒会長』の伝説はまだ校内に残っていますね。」

 この口ぶりは柔らかく、髪が半分白くなってきた女性は、UTASの校長いりのり。そして入江さんは、あの女がUTASにいた三年間での担任だった。この関係のおかげで、あの女に従って校長さんの家に数度挨拶をした。

「いえいえ。今に至ったことができるのは入江校長の指導があるからと母さんがよく僕に教えていました。このプレゼントも、ささやかなお礼です」

「この性格は、たかに似ているんだね。そういえば、昨日ふるかわ教頭が高等部のクラス分け表を送ったが、君に見せようか」

「では、お言葉に甘えて見させていただきます」

 クラス分け表を受け取って、一分経たずに自分の名前を見つけた。

 あまみやまさ。一年A組。出席番号は——予想通りの1番だった。

「ありがとうございます、入江校長。母さんから聞いたのですが、学校でピアノが置いた教室があって……」

でしょう?彼女がよく覚えているね。調律が定期的に行ったのだが、この二十年間で、生徒があの教室に入ることは一度もなかった」

 入江校長は何かを思い出したように見える。そして、

「その教室を使用してピアノを練習するつもりのかい?」

「はい。プロになるつもりがなくても、この技を捨てるのは良くないと母さんが話したので」

 ——これも僕が注意力を転移するこの世界から逃げるの一つの手段だが、その理由を言いたくない。


 沈黙が校長室にしばらく訪れる。入江校長は窓に向かって、外の空に眺める。たぶん、校長も悩んでいるだろう。ただ一生徒の僕に、特別優待を与えることを。

 5分ぐらい経って、厚い雲から視線を戻した校長は鍵を使って、机の引き出しを開ける。そこから、一つのカードを取り出し机に置いた。

「もし必要なら、このカードを使えばいい。君の母さんがこの学校にいた頃もこのカードを使っていたが、卒業の日に私に返した」

 僕はカードを持ち上げて見る。カードの正面は普通の生徒カードと同じく玄関でも見た文字と学校のパノラマ画像を写っている。しかし、裏面はブランクだった。名前と生徒番号、そして写真を写っていた生徒カードとは違う——という疑念が心の中で抱える。

「入江校長、本当に僕がこれを持っていいんですか?」

「隆子の息子なら、校則を違反することをするまいと信じている。そして、人を信じるなら、信じ切らなければならない」

 校長の言葉の重さを味わっている僕は、よく見る言葉を思い出す。

 大いなる力には、大いなる責任が伴う。

 逆に言うと、大いなる責任を背負うと、大いなる力を発揮しなければならない。それを意識した僕は、校長に頭を下げて礼をする。

「入江校長のご信頼をいただいて、ありがとうございます。校長が教えた言葉も、肝を銘じております。しかし、僕がこのカードを携帯したら、余計な厄介を起こるかもしれません。このカードの専用権限を僕のカードにコピーしてから校長に返すのはどうでしょうか」

「構わない。ちょっと待って」

 入江校長はプリンターのトレイから空白のA4紙を引き出し、何かの内容を書き出して記名押印をしてから、それを僕に渡す。

 カード権限のコピー許可を確認した僕は、もう一度礼をする。

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

「政樹君の新入生代表挨拶を、期待しているよ」

 顔を上げた僕は、入江校長の微笑みを見える。ファイルを畳んで鞄に、空白のカードを制服の左ポケットに収めて、校長室から出て、ドアをそっと閉じる。


 ◆


 入江校長の前に話したことは何割本当なのか、何割噓なのか。正直、僕には分らない。

 覚えていることはただ一つ——決してこの空白カードの権限を濫用してはいけない。

 なので、一年A組の教室の前に逡巡した僕は、二十分以上廊下に立った。ドアを開けてくる教師が現れるとき、僕はスマホの画面を確認する。

 時間は、7時15分。

 誰もいない教室に入った僕は、「おはよう」みたいな挨拶をする必要がない。ドアに一番近い席に座って、鞄を机にかけると、手の中のノートを読み返す。

 ノートには、新入生代表挨拶の概要を書いている。あの女が提供した参考資料のおかげで、この三日間で概要を完成した。だが、この間は何度も悩みに落ちている。

 なぜなら、僕は解っている。資料に記載した先輩たちに比べると、自分の性格には一目で見える致命的な欠陥が存在する。


 小学校からいい成績を取り続ける僕は、UTAS中等部の編入試験を参加した時に、実力が発揮できなかったため落第し、やむなく近所の公立中学に入りせざるを得ない。

 編入試験の成績を見たあの女が、かなりむかついていった。


『あんたは本当、あんたと仲がいいように見えた奴らが、善意を抱いてあんたに接近すると思うの?奴らはただあんたを嫉妬して、騙し取るつもりだけだ。その目的を実現する時に、ボロ雑巾のようにあんたを捨ててやるわ』


 そしてあの女は僕を更衣室に閉じ込めて、外からドアをロックした。

『何か間違うことをした』と反省させられて、更衣室の照明をつくことも許されなかった。

 その禁足は、次の日の朝まで続いていた。

 小学の僕には仲がいい友達も何個がいたが、あの二人の状況のため、友達を家に連れる考えはちっともなかった。さらに、その事件から僕は、彼らとの連絡を切るだけではなく、周りの同齢を信じることも二度とできない。


 中学の僕は、自己防衛のためにこのようなメカニズムを作った。

 学年始めのクラス分けから数日で、心の中でプリセットした標準でクラスメートを(頭の中で)評判・・し、可能の悪影響を見積もる・・・・。そして僕は、できる限りクラスの空気から剝離・・する。

 やむを得ない接触する時に、クラスメートに警戒心を保って、必要ない交流を減らす。

 この行動パターンでクラスメートたちと疎遠にした僕は、成績がいつもトップだったが同性友人がなかった。異性友人も尚更だ。

 クラスで委員になる機会がほぼゼロだった。なので、新入生代表として生徒たちの前で演説を務めるようなことは、今までのない体験だった。

 だが、生徒たちの心を理解できないが、既存の資料で生徒たちの心を理解し真似することできる。更に、生徒たちの心を操作することも、不可能ではない。

 僕の視線は、自分が完成した概要の最後に落ちる。赤いマークペンが、数行の要旨を書いていた。


 演説が始まる時に、できるだけゆっくり話す。色んな話題を提出し、聴衆が何に興味を持っているかを探る。

 もし最も現場を動員できる話題を気付いたら、直ぐに熱のこもった話しぶりで聴衆の感情を呼び起こす。

 聴衆の感情を呼び起こす時に、速度と強さを調節し、聴衆を夢中させる。決して自分の体力や精神力を惜しまないで。

 必要なら、聴衆の中に演説する。“僕は、君たちと共にいる”という空気を作る。或いは、裏からではなく、聴衆の中から講演台まで歩く。


 あの女の教育方針のおかげて、小学の頃には、彼女の友人の下で声楽とピアノを学習した。その学習の結果として、僕は中学の音楽教師から「」と好評した。合唱部の勧誘もあったけど、思考したから拒否した。

 考えると、自分の声がここからの生活戦闘で使える武器になるかもしれない。今日の新入生代表挨拶で試してみようか。

 中学時代と違って、高校三年の生活でクラスメートたちと距離を取るつもりがない。少なくとも、この冷ややかな態度を隠して、「雨宮政樹は親切な人」という印象をクラスメートたちに感じらせる。新入生代表の演説は、この偽装工作の第一歩だ。


「初めまして。席から見えると、あなたは……」

 男子生徒の声が僕の耳に入った。

 顔を上げると、教室にはすでに数人の生徒がいた。そして、声を出した男子生徒が僕の机の隣に立っている。彼が言った言葉によれば、僕の身分を知ったかもしれない。

「雨宮政樹です。これからの一年よろしく」

 席から立ち上がった僕は、本心か偽装かが分らない笑顔で応じる。

「よろしく。俺はどうとし。前に見ったことがないなー、外部から来たのか?」

「ああ、僕は外部編入生だ」

「そりゃ大変だなー。中等部より試験一回増やしたからさ。しかも、毎年入れる生徒が少ないし」

 高等部の外部編入定員は、中等部から中退、或いは他の高校に入る生徒の人数より決める。つまり、外部から高等部に編入するのはかなり難しい。あの女によると、外部編入が受け入れない状況が2回も起きた。この高校を志望した生徒たちにとって不幸だといえる。


「そういえば、外部編入試験の日……そうそう、その日だ。昼ごろカフェテリアに向かった時、ホールで超きれいな双子姉妹が抱き合って号泣していると見た。あの子たちのそばに行って慰めたいが、その一人が俺に言った。教室の中で恐ろしいスピードで解答用紙を書き込む男子生徒がいて、自分が全然ついていけねぇって。そのストレスがどんどん溜まってから、試験時間が終わるまでに解答ができていなかった」

 そんなことがあったのか?記憶の中で探している。工藤が言ったその日の午前——教科は数学らしい。試験時間が終わるころに、まだペンを止まらなかった生徒は五、六人だったかもしれない。その場に号泣した生徒が確かにいるのだが、どの生徒だったのかはもう思い出せない。

「じゃあ、あの二人は合格したのか?」

 僕の問題を聞いた工藤は、頭を左右に振る。

「その時名前を聞いた。でも、一年全部八組のクラス分け表を見たから、あの子たちの名前を見つけていない。残念だなー、あの双子姉妹は俺のタイプだったね。もし合格だったら、この学校の人気ランキングがもっと面白くなったぜ」

「面白くなる?うーん……その『人気ランキング』は何だ?」

 中学で攻撃的な態度を他人に見せる僕には、その『人気ランキング』とやらは正直意味がなさそうだが、新しい環境で自分を偽装するため、工藤を聞いてるほうがいいかもしれない。

「この学校の生徒たちがグループを作って組織した投票だ。見せてもらおう」

 工藤のスマホ画面を見る。彼の名前は、男子組のかなり上位にいるらしい。

 そして僕の視線が、見たことがある名前に集中する。

かしわばらっていうのは……中等部?高等部と中等部の生徒共にランキングするのか?」

「もちろんさ。柏原……この子がすごいなぁ。去年、中等部の新入生代表だってやつ。一学期の中間ランキングで三位に上がって、それから『女王様』と『姫様』の次の位置を譲っていなかった。学校内の多くの人に『天使様』と呼ばれる。そう言えば、今年『姫様』がうちのクラスにいるんだ」

『女王』、『姫』そして『天使』……くだらないな、この学校の生徒たちは。もう一度スマホの画面を見て、工藤に問う。

「『姫様』の名前……もりやまさきか。このクラスにいるっていったよな、工藤?」

「あんたの目の前に通り過ぎていただろうが」

 顔を上げて左の方向を見る。長い髪の少女が周囲のクラスメートたちに挨拶しながら席に向かっている。よく見ると、森山さんの容姿は『姫』という称号に相応しいと言える。だが、可愛いのか否かはともかく、心を揺らぐほど綺麗ではないと思う。たぶん、僕の審美標準がちょっとおかしいかもしれない。


 予鈴の時間が近い。スマホを工藤に返し、もう一つの問題を投げた。

「僕を入会させてくれないか。大抵喋らないけど、ランキングの集計を手伝えるかもしれんが」

「いいよ。連絡先を交換するか」

「おっけい。いまLINIEを開ける」

 スマホを取り出し、QRコードを工藤に見せる。彼がそれを読み込みと、新しいLINIEのメッセージが送信された。

【Toshio_KがあなたをQRコードで友だちに追加しました】

 確認すると、メッセージを送る。

【MSK: OK?】

【Toshio_K: OK。HRが終わったらグループに招待する】

【MSK: thx】

 予鈴が鳴ると、工藤は慌てず後ろの席に座った。

 角刈りで黒いフレームの眼鏡をかけてる、二十代後半の男性教師が教壇に着いた。

「皆さんこんにちは。俺はこの一年A組の担任で、名前はかん。そして、担当教科は数学だ。これからの一年は、よろしくお願いします。では、一番右から自己紹介を始めましょう」

 目を閉じ、深呼吸をした僕は席から立ち上がって、これから三年間の偽装工作を実行する。

「皆さんこんにちは。僕の名前は雨宮政樹……」

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