Ĉapitro.01 市長と捜査官と緑の帽子を被る男

#01 Hejmo de Silento: «Bagne de Toulon»

 夢を見ていた。


 蹲る体勢で、小さな男の子が泣いている。

 最初はただ、涙が流れていた。

 そして、しくしく泣いていた。

 最後に、号泣になった。


 男と女は、数メートル離れの位置で立っている。皮肉な言葉は、間もなく喧嘩になった。ガラスとセラミックの容器が次々と地面に打ち砕かれ、その割れた音は居間に響き続いた。

 やがて、あの二人は戦い始めた。その泣いていた男の子は、どっちにも気づかれなかった。


 ——お父さん、お母さん。お願い、お願いだから。もうけんかをやめていただきませんか?

 ——ぼくは、いい子にしますから。


 しかし男の子の話は、とっちのもとに届けなかった。


 男の子は、地面に転がったガラスのカップを拾った。グリップを握って、全力で頭の上に叩く。

 ガラスのカップが粉砕し、傷口から出る血液は頬に流れていた。

 男の子は、多分こうするなら、あの二人が自分を気付いてくれると思った。

 それでも、あの二人の戦いは、停止する様子がなかった。


 血液の流れは、いつの間に止めていた。泣いている声も、この空間で消えた。

 男の子はトイレに入って、辛うじて体を上げて、鏡の前で涙と血を流した。

 タオル一つを取って、居間と寝室を通し更衣室に入った後、男の子はそっとドアを閉じた。そして、ドアノブにタオルを置いて、しっかり結び目を作った。


 ——もうこんなことを見るのは嫌だ。

 ——お父さんとお母さんがこんなになったのは、僕のせいだった。

 ——ぼくが死んだら、もうお父さんとお母さんがけんかすることを見ないに済んだ。

 ——ぼくが死んだあと、お父さんとお母さんが、もう二度と喧嘩しないでしょうか?


 空に浮かんだ僕は、男の子が考えていることを読めるようだ。その男の子は、僕の目の前でタオルに頭を置いた。

 だが、僕の心の中は、男の子を止めるという考えが一つもなかった。


 ——このまま終わりましょう。


 頸椎の​​ひび割れ音。男の子の頭は無力で下がった。

 いつの間に、居間での喧嘩が止まった。更衣室のドアが乱暴に開かれ、男と女は、男の子の死体を発見した。

 死のような静寂は、ほんの数分しか続かなかった。そして男と女は、どっちのせいで息子が死んだに巡って再び喧嘩したが、誰も死んだ男の子に目を向けることをしなかった。


 男の子の体が少しずつ硬めになるのを、無関心で見ている僕の心には、もう絶望しかない。

 男の子は、こんなことが現実にあるはずがないと知っていたから。

 男の子は、自分が何をしても、生きたとしても、死んだとしても、何もかも変わるはずがないと知っていたから。


 ◆


 午前5時30分。

 アラーム音の中で目覚めた僕の視野に入ったのは、右側の洋服レールと左側のラックだった。

 レールには種類多様の洋服がぶら下がって、ラックの上で置いた収納ボックスには女子用下着と生理用品だった。

 今日は入学式の日だった——それを気付いた僕は、見慣れた風景の中で、うるさい携帯を押し下げて、地面から立ち上がった。



 とあるマンションのルーム802、2LDKの更衣室——十数年前、に連れられて帰国したから、ここは僕の居場所になった。

 僕は出来る限り音が出ない方でドアノブを回した後、マスターベッドルームを忍び通しトイレに向かった。

 このマスターベッドルームには前にしか住んでいなかったが、二週間前から一人の少女が増やした。

 ゆいという12歳の少女は一応僕の親族だった。が10歳の頃に、両親は飛行機遭難事故で亡くなって、彼女は唯の母方の祖母に引き取られた。

 小学校から卒業した時、唯の母さんとその両親はあの女がより良い生活環境と学習指導を提供できると思ってから、あの女に一緒に暮らせるどうかと尋ねた。

 あの女は僅かな家族の願いに快諾した。こうして、マンションに暮らしてから、唯はあの女と一緒にクイーンサイズのベッドに寝ることになった。

 子供の複雑になりつつある気持ちを考慮して、僕は高等部編入試験を合格した後、あの女に連れられて校長と面接する時に、察しがつく寮舎に住むことをお願いした。

 旧寮舎に住むことができることを聞いた時、あの女は微妙な顔色をした。だがその表情は、校長が「君は特待生として、学費と宿泊費の免除を恵まれている」と言った時までだった。その後の彼女は、営業の微笑みに戻った。

 こんな経緯に経って、このマンションに住んでる人は三人のままだった。



 トイレから出た僕は、サブベッドルームの扉を見た。それは予想通り、ロックのままだった。

 はずっと平行線のような生活を過ごしていた。共に寝ることがなく、共に食事をすることもなかった。もっと正しいといえば、僕はあの二人が料理することを、一度も見なかったんだ。

 一年内のやりとりは2桁未満だった。あの二人は夫婦をふりにするつもりがなく、家族写真まで一つも撮ってなかったんだ。

 こんな環境に慣れた僕は、最初からあの二人が仲直りする可能性が想像してなく、当たり前のように息ができない雰囲気を維持してきた。


 ある日、あの女は小学生だった僕を連れてその親友の家に訪れた。そのおばさんは、僕に一つことを聞いた。


『あなたは、弟や妹を一人欲しいの?』


 僕は頭を左右に振って、何も答えてなかった。

 今の僕はその原因を思い出せない。それでも、自分の答えが何も間違えなかったと思う。


 僕の記憶の中で、あの二人が激しい喧嘩をした事があった。その内容はすでに忘れたけど、僕はあの二人がお互いに向いた眼差しを、今でもはっきり覚えている。

 あれは、相手を家族として見る眼差しではなかった。

 あれは、相手を他人として見る眼差しでもなかった。

 あれは、だった。


 

 だから僕は、自分の命が終わるまで、この牢獄でこんな家庭関係無期徒刑を背負わなければならない。

 そして、この僕の命を終結するのは、病痛なのか、意外なのか、それとも自分自身なのか——今になっても、僕が確定できない。

 だから僕は、もう一つの命が同じ罪を犯すこの家で生まれることを、これ以上欲しくなかった。



 マスターベッドルームに戻った時、あの女はすでに起きたようだ。

「もう学校に行くのか?」

「はい。唯さんはまだ寝ていませんか?」

「あとでその子を起こしてみる。中等部の入学式が午後だとはいえ、昼まで寝るのはいけない。そう言えば、何か忘れ物がある?」

「ないと思います。昨日で荷物を寮まで送ったんです。」

 僕の全ての荷物は、26インチの旅行箱一つの中だった。

「それでいい。学校まで送るの?」

「いえ、結構です。は午前、研究室の仕事がありましょう?」

「大した仕事ではないと思うですが、あなたがそう言ったら、自分で行きなさい。私は午後、唯を学校に送る。」

「はい、分りました。」

「それで、私は校長さんへのプレゼントをリビングルームに置いた。それを持って、学校に到着するから直ちにそちらに参りなさい。」

「はい。」

 短い対話探り合いが終わった。僕は更衣室に戻って制服を着替えし、鞄を持ってリビングルームまで出た。

 その時僕は、を寮まで持つべきと思う。壁の書架から4冊の文庫本を取って鞄の中に置くと、プレゼントボックスを持ちながらマンションを後にした。

 全てを確認した僕は、前方のエレベーターに向かう。




――・——・——・——・——

«Bagne de Toulon»はフランス語「トゥーロンの徒刑場」です。

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