第2話





 レイドに参加した全てのパーティが城内に入ったのを確認すると、岩陰で沈めていた腰を持ち上げる。四方に視線をめぐらせて、お目当てのものを発見した。


「おっ、いたいた」


 一体のアンデッドが、ナメクジのように地面を這っている。弱々しくて動きもとろい。さきほどの冒険者たちがトドメを刺すのを見落としたアンデッドだ。


 ハリスの装備は右腰に戦闘用のダガー、左腰には投擲用のナイフを五本ぶらさげている。防具は革製のベストに黒のマント。職業は盗賊だ。


 左手の指先で投擲用のナイフを一本抜きとる。


 飛影ひえいという勢いよくナイフを投げる戦技で、地を這うアンデッドの額を突き刺す。


 それから走って接近すると、右腰のダガーを抜いてアンデッドの脳天をつらぬいた。これで完全に停止する。ぴくりともしなくなる。


 アンデッドの頭部からダガーと投擲用のナイフを引き抜く。横たわった死骸の体をあさってみた。装飾品の類もなければ、使えそうな武器もない。金になりそうな目ぼしい品は皆無だ。まぁこんなものか。城内に入れば、もう少しまともなのがいるだろう。というかあれだな。間近で触れてみるとよりリアルというかグロイというか、気持ち悪い。ついでに臭いも酷い。さっさと手をはなす。


 ハリスは毎回この手段で金を稼いでいる。今夜はレイドだが、普段はパーティを尾行する。パーティの連中が倒しそこなった魔物から戦利品を奪う。そうやっておこぼれをもらっている。


 この手法がいつも成功するとはかぎらない。窮鼠ネコを噛むというか、死にかけた魔物が猛反撃に転じてくるときだってある。敵が強くて手に負えないと判断したら、即座に逃げる。そうしないと助けてくれる仲間がいないハリスは死んでしまう。


 もちろん、こんな姑息なことをやっているのは他の連中にばれちゃいけない。ばれたらタコ殴りにあう。ボコられる。それはやばい。魔物に追いかけられるよりもやばい。当然、今夜レイドに参加しているパーティにもばれちゃいけない。ハリスは正式にはレイドに参加していないから。


 息絶えてないアンデッドがまだいないか探してみるが……どれもこれも天に召されているようだ。


 腐った肉片やバラバラになった骨がちらばった景観は、無残の一言につきる。戦場跡というのは、だいたいこんな感じだから見慣れているが、転がっているのがアンデッドとなればことさら凄惨さが強調されていた。


 なぜ冒険者たちが、すき好んで魔物がいるような危険な場所に行くのかといえば、腕試しとか功名心とかいろいろあるだろうが、第一は金だ。


 冒険者は魔物の脅威から住民を守るために活動しているが、ハリスを初め、多くの者が住民を守ることよりも金を稼ぐことに重点をおいてる。倒した魔物の装飾品や部位などは町で売れる。ダンジョンなんかの奥にはお宝が眠っていることだってある。みんなそれで生計を立てている。食っていくために、みんな必死だ。


 そして一口に冒険者といっても、全員が同じタイプではない。それぞれ職業がある。基本は戦士、盗賊、狩人、魔術師、回復術師の五種類。それ以外にも特殊な複合職もあるが、こればっかりは才能のある者しかつけない。


 職種によって装備が変わり、前衛、後衛と役割も決まってくる。


 シルフィアのパーティを例にとれば、シルフィアとセシリーが前衛で敵と正面から打ち合い、後衛にいるキヨミが回復魔術で仲間を支援、同じく後衛のエヴァンスが攻撃魔術で敵を蹴散らす。もう一人の後衛であるカイトが弓で前衛を援護しつつ、非力なキヨミとエヴァンスを守るという案配だ。


 なぜパーティを組んでいないハリスが基本的な戦術に詳しいのかといえば、これまで多くのパーティを陰ながら観察してきたのと、ヒマなときに架空の仲間をつくって妄想にふけってきたからだ。その妄想が現実に役立ったことは一度もない。泣けてくる。


「もう金目のものはなさそうだな」


 再び周辺に視線をめぐらせると、ハリスは足先を魔城にむけた。


 いよいよ城内に踏み入る。







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