39話 ジルが落ち込むと大雪が降る


 ジルは温泉小の職員室前にある椅子に座り、ため息をついていた。カウンセリングルームで過ごす小学6年生の男の子に悩みを聞こうとしてもなかなか話してくれず、授業にも出ていないのだ。

 ジュードが姉の肩をたたき、「『ジル先生に渡してください』って言ってたぞ」と便箋を渡す。『4歳から一緒に暮らしている母とその妹から殴られ、女性を見ると怖く感じて話しかけられない』とボールペンで書かれていた。


 「俺や泉二郎先生、亮介先生とは話せる。姉ちゃんとも話したいらしいぞ」ジュードが言った時、ベージュの半袖シャツと紺色のズボンを着た黒い短髪の小学5年生の男の子が「ジル先生が嫌いなんだよ!」と彼女に向かって絶叫した。

 ジルは椅子に座り込んで号泣する。雪が降り始め、職員室内にいた4年1組の男性教師が「横須賀線止まるな」と他の教師たちに小声で言った。

 (ジルが落ち込むと大雪が降るため、40人の教師は倉庫から寝袋と食料やお茶などの入っている段ボール箱などを出してきて着替え、シャワーを浴びてから鷹野と温水が渡す湯気の立つ緑茶とレモネードを飲みながら職員室内に泊まる)。

 


 ジルがタオルで顔を拭いていると、肩にメスのオカメインコ、塩せんべいが止まっていた。小学5年生と6年生の男の子が「俺の気持ちも知らず、前向きなことばっかり言う!」「お前最悪‼ジル先生泣かすなよ!」と怒鳴っている。

 

 「自分の気持ちを話したほうがいいわよ」小学5年生の男の子はパイプ椅子に座り、「小1の時から前向きな人が嫌いだったんです。休校中に両親と自宅で過ごした時も14歳の兄だけをほめ、勉強嫌いな俺とは話さずにいました。

 職員室前で満面の笑みを見せながらストリートダンスを10曲踊っているジル先生を見た時、『俺の気持ちも知らないで‼』と怒りがこみ上げたんです」と言い泣き出した。

 

 「ジル先生も、カウンセリングルームに来る子たちの話をどう聞いたらいいかで悩んでるの。ノートやメモ用紙には『受験で悩む子が多い。親に怒鳴られるのがつらいと言った小6の女の子に、何と答えればいいのかわからず落ち込んだ』と書かれていた」塩せんべいに言われ、男の子は「ごめんなさい」とジルに頭を下げた。

 「桃や直美と同じクラスの北見海子は、養父母と一緒に暮らし始めて夜寝られずにいるらしい。『高見家の黒柴ようかんや、オスの愛猫じょうぎには笑みを見せる』とボールペンで書いてある」とジュード。

 ジルは職員室内にあるCDプレイヤーにCDを入れると、小学生二人と一緒に踊る。


 「踊ってると、前向きになる!」ジルは階段の上で踊りながら、彼女の長机の上に止まっている塩せんべいやイワシの缶詰などが入った段ボール箱を持っている他の教師たちにも笑みを見せた。

 


 

 

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