38話 漢字の再試験と白波家の10年
1月21日、昼12時。猛雄は銭湯高校で10回目の漢字の再試験を受けていた。解答用紙が汗で濡れ、漢字が薄くなってしまったが無事に再試験を終え、水筒に入れていた緑茶を飲んで教室に戻る。
漢字テストが再試を受けた10人に渡され、「白波。漢字が読みやすかった」と静人が猛雄の肩をたたき笑みを見せた。
「明日は休校になります。寝袋やラインなどを使い、14歳~30代までの女性を連れ去る暴力団『ガンナイフ』が温泉小と源泉中、銭湯高校に来ると秋次郎さんから連絡がありました。
教師たちが太い木や板などを持って校内にいるので、家から出ないように」と静人が黒板に水色のチョークで書き終えて言った。
―――午後3時。小町通りのアイスクリーム屋に入ると、リーナと佑樹が待っていた。「再試験で85点取ったって聞いて、リーナと驚いていたんです」と言い満面の笑みで猛雄を抱きしめる。
「俺はブルーベリーとヨーグルトのアイスで」猛雄は女性店員から渡されたアイスをかじり、「コーンと一緒に食べるとおいしい」と言った。
「自宅で漢字を暗記してる時、風呂の浴槽をタワシで洗ってた母ちゃんと小3から10年一緒に暮らす茶色い柴犬でオスのロースに驚かれた。佑樹、ありがとう」肩をポンとたたきながら言うと、嬉しそうな笑みを見せた。
―――午後8時。レスリング部での試合を終えて帰宅した猛雄はロースに「ただいま。85点取ったぞ」と言いながら耳をなで、浴室でシャンプーをする。ロースは青色のタオルで体を拭いてもらい、しっぽを回しながら飼い主の顔をなめた。
居間で再試に向け勉強していた空音がイチゴ大福をかじりながら「お帰り」と兄に声をかける。
「レスリング部での試合で、2年生の男子に負かされそうになった」と空音に言うと、台所で牛肉入りカレーライスを作っていた母が「再試にも来てた子だね。うちの前通ってったよ」と答えて深皿を机の上に置いた。
「父ちゃんが亡くなって10年になるねえ。あたしと銭湯高校で出会った時、カレーライスをおいしそうに食べてたんだよ」と母が言い、息子に向かって笑みを見せた。「ロースがうちに来た時、満面の笑みでなでてたなあ。散歩は私とお兄ちゃんだけど」空音は白菜の漬け物を白米と一緒に食べながら、ロースをちらりと見る。
カレーライスを食べ終えて自室に入った猛雄はハンガーにかけられた銭湯高校の制服を見ながら、匂いをかいでいるロースに「父ちゃんが着てたものだ」と小声で言う。
「プリント埋め終わった」猛雄は入浴を終えて海苔入りの塩ラーメンが描かれた寝間着に着替え、寝息を立てるロースと一緒にベッドに入る。
「父ちゃんの墓参りに行かなきゃな」耳をなでて言うと、足を伸ばしながら「ウ―――」と答えた。
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