36話 大雨と『紫いもタルト』結成


 後ろから「わっ!」という声と同時に肩に両手を置かれた美月が振り返ると、胸元にビッグベンが描かれた紺のダウンコートと黒の冬用ズボンを着た亮介が立っていた。「亮介‼」と驚く妻に、「ははっ」と笑い声を上げ傘を渡す亮介。

 強一や静人と温泉小や小町通り、鎌倉駅前での呼びかけを終えた秋次郎が、和室で英会話や九九の暗記を終えた小中学生と高校生たちに湯気の立つたい焼きと緑茶を渡していた僧の男性に「あけましておめでとうございます」と一礼しつぶあんのたい焼きをかじる。


 「歌姫‼」風鈴が描かれた紺と水色のノートに20個の漢字を書き終えた高校3年で黒い短髪の男子と中学2年で背中まである茶髪の女子が、黒いダウンコートに茶色いズボンを着て背後から美月に近づく40代の男に気づいて絶叫する。

 亮介が紺色のリュックサックから出したハンマーで男の持つ金属製の板をたたいて井戸の前に落とし、源次郎が青から緑に変わった目で冷や汗をかき寺から逃げようとする男をにらむ。男は失神後秋次郎に手錠をかけられ、鎌倉警察署へと向かっていった。


 「ありがとう」美月と亮介が頭を下げると、「小6と中2から歌姫の曲、聴き続けてます」と照れくさそうな笑みを見せる。

 「午後6時から大雨になるらしい。直美とタルトが待ってるから、パン屋でベーグルを買って帰るぞ」「うん」

 黒と青の傘を腕にかけ、石段を下りて寺から出ていく亮介と美月に、20人の小中学生と高校生が「歌姫‼」「亮介先生‼」と満面の笑みを見せながら手を振った。


 亮介と美月はイチゴやゴマ、チーズ入りなどのベーグルが10個入っているビニール袋を持ち帰宅した。「おかえり」居間でタルトと一緒に『リート新聞』を読んでいた

直美が、「ベーグルだ」と満面の笑みを見せる。

 夕食を終えベーグルを食べていると、大雨が降り始めた。屋根から滴る雨の音に驚く直美とタルト。


 「温水先生から電話だ。温泉小と源泉中、銭湯高校は大雨で2週間休校になるらしい」「大雨が多いよね」美月がチーズとベーコン入りのベーグルをかじりながら、小声で言う。

 

 「『紫いもタルト』結成前、渋谷駅前で明人や真たちと熱唱してたな」と亮介、「沖縄に行った時、明人がホテルで紫いもタルトを10個食べて腹痛になり、賢が激怒してたの」美月が大雨を見ながら笑みを浮かべる。


 「賢が入って5人で活動を始め、銀座でアイスクリームを食べたり、美月と一緒に小冊子を作って横浜の小中学校や高校に渡しに行った」と満面の笑みを浮かべ言う

亮介。

 「温泉小や源泉中、銭湯高校にも愛読者が多い『リート新聞』のもとになってるんだよね」美月が表紙にマイクが描かれた水色の小冊子を直美に見せる。マイクとドラムを持ち熱唱する美月と亮介が映っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 


 

 

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