34話 佑樹と猛雄の漢字勉強
「ようかん、じょうぎ。明けましておめでとう」黒いダウンコートと紺色のジーンズを着て『便箋と封筒の店 高見』に入って来た15歳の武蔵野佑樹が、ソファーに座ってようかんとじょうぎの背中をなでながら笑みを見せる。
店内でイチゴ大福とたい焼きが描かれた便箋を買い終えた猛雄が「俺、銭湯高校で再試験になることが多い」と佑樹に言う。
二人はソファーの上で体を伸ばしてあくびをしている2匹に手を振ってから、知子の古本屋に入って椅子に座った。
「漢字が苦手なんだ。静人先生にも『漢字を20個書きなさい』って言われてるし」と言う猛雄の長机に、佑樹はリュックサックから出した漢検の問題集6冊を置く。
「3冊目の第5回まで解き終えてください」「マジか」猛雄は紺色のシャープペンシルを持ち、漢字を書き終えた。
「『絶妙』の『妙』が『放』になってます」「マジか」とため息をつく猛雄の肩にムートが止まり、首を回してあくびをする。
「夕方5時までやります。スマートフォンは肩掛けカバンに入れてください」二人は知子が淹れる湯気の立った緑茶を飲み、30個の漢字や10個の部首をノートに書き続けた。
―――午後5時。「漢字、書けるようになってきた。スマートフォンやパソコンを見ることが多いと書けなくなるんだな」漢字ノートを見ながら小声で言った猛雄に、ムートが棚から児童書を2冊持って来て渡す。
「ありがとう。買ってくな」猛雄は1000円出して2冊を買い終えると、知子とムートに手を振って古本屋を出た。
二人は鎌倉駅に向かって歩きながら、好きな動物について話していた。「僕は柴犬が好きなんです。小1の時に一緒に暮らしてたメスの『レモネード』は賢くて、新聞がポストに入る音を聞くとすぐに取りに行ってましたね」と男子中学生。
「俺はユキヒョウとヒグマ。高校1年のレスリング部の大会で『ヒグマ』って呼ばれてた」「電車で怒鳴ってた男を床に押さえてましたね」と佑樹。
話しているうちに鎌倉駅に入り、改札口を通って横須賀線に乗った。電車内で座席に座って地図を見ているジュードと会い、肩をたたこうとすると「猛雄、佑樹。漢字テストに向け、古本屋で勉強してるって知子さんが言ってた」と小声で言った。
「ジュード先生は、社会科の授業やテストで地図記号を出すことが多いですよね」
佑樹が言うと、「姉ちゃんと一緒に日本に来て、寺やポストなどをデジカメで写真に撮り地図記号を覚えた」とリュックサックからノートを出し、鉛筆で書いた畑や郵便局の記号を二人に見せた。
「ジル先生と一緒に、寿司屋でマグロの握り食べてましたよね」「姉ちゃんの好きな日本食は寿司で、マグロの握りばっかり食べるんだ」ため息をつくジュードに、猛雄と佑樹は噴き出した。
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