31話 鷹野の父方の祖父と『ガンナイフ』
―――1月11日、午後3時。亮介と鷹野は温泉小の図書室に来て、木でできた長机の下に置かれている椅子に座っていた。
「俺の父方のじいちゃんは、55歳の時に『ガンナイフ』の一員だった」と話す鷹野に、絶句する亮介。
「俺が10歳の時、一人で息子や娘を育てる父親や母親にダウンコートや缶ジュースを渡していた。休みの日には鶏の酒蒸しや豚汁、ミネストローネなどを作って食べたなあ。
カラオケ店にいた肩までの長髪で34歳の男はじいちゃんの弟子で、22歳の時に大学受験に失敗し女性を連れ去ろうと考え始めたらしい。
メンバーは3年前から紺の銃とナイフの刺青を首の後ろに入れるようになり、連れ去り事件が増えている」
パサッという音が聞こえ、亮介が廊下を見ると美月が印刷し終えた『リート新聞』を床に落とし、真っ青な顔で立っていた。
鷹野が図書室内に置かれたポットに茶葉と熱湯を入れ、湯気の立つ緑茶のカップを木の椅子に座った美月に渡す。
「美月。俺のじいちゃんに会ってくれないか」鷹野は机の上に置いたパソコンの画面を開き、美月にイヤフォンを渡す。
画面に鷹野と似た切れ長の瞳を持ち、青色のワイシャツと紺の長ズボンを着た男性が映った。首には紺の銃とナイフの刺青を入れていない。
『美月さん、はじめまして。ワシは鷹野陽二の祖父で『ガンナイフ』の一員だった86歳の陽介です』『はじめまして。温泉小の教員で『リート新聞』発行者の田原美月です』
陽介は美月に向かって、『ワシの弟子が、あなたを寝袋に入れて攫ったと聞きました。つらい気持ちにさせてしまった』と頭を下げた。
「じいちゃん」鷹野が画面に手を振ると、『陽二、元気か。源泉中で漢字テストを作っているイギリス人女性教師と付き合っていると聞いたぞ。彼女が鎌倉駅で男に首を絞められていた時、助けたと』と満面の笑みを見せる。
鷹野は顔を赤くし、「彼女―――キャスィー・ブルーフラワーは小町通りマラソンで実況もしたんだ」と小声で言った。
『美月さん。大阪にいる30~70代の『ガンナイフ』の男40人が、1月22日に温泉小や源泉中、銭湯高校にも来るという新聞記事がありました。気をつけて』
冷や汗をかく美月に、『『リート新聞』に、演歌も入れてほしいんですが』と満面の笑みで言う陽介。美月が「はい」と答えると、「野球部のマオも演歌好きだ」と児童書4冊を読んでいた亮介の声が聞こえた。
鷹野が陽介に手を振ってからパソコンの画面を閉じると、両手に『リート新聞』を持ったマオが図書室内に入って来て、『リート新聞』を美月に渡した。
「ありがとう」マオは照れくさそうに「ボールを飛ばしてきます」と言って亮介と鷹野に一礼し、野球部の男子4人と一緒に昇降口を出て校庭へ向かった。
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