30話 タルト、激高
―――1月6日。タルトは緑色のコートと濃い茶色のジーンズを着た直美と一緒に寺に来ていた。赤いフリースに濃い緑のズボン、青のスニーカー姿で寺の前で一礼し終えた14歳の男の子を見た瞬間「ア―――‼ア―――!!!」と絶叫し始めるタルト。激高し、男の子のほおをくちばしや爪で引っ張ろうとする。
「わたくしの大事な男の子に『川に転落しろ』と笑いながらラインを送り続けた!!!
帰宅後に泣き出し、釧路湿原内で死んでいたんです‼顔には泥水が飛び散り、ひざから出血していました」
「『ごめんタルト。俺、もう生きたくない』と言ってたんですよ‼」と怒鳴り、男の子のほおをくちばしでつつき始めたタルトを、ヘビの源次郎が尾でポンとたたく。直美は石段の上にへたり込んでいる。
石段から落ちそうになった彼女を源次郎が尾でつかみ、僧の男性から渡されたパイプ椅子に座らせてから「怒鳴るなタルト。直美が驚いている」と小声で言った。
「ありがとうございます、源次郎さん」源次郎は直美の肩を尾でポンとたたき、「タルトの前の飼い主―――釧路翔は聡明でイギリスの菓子タルトが大好きな子だった」と話し始めた。
「同級生たちから話しかけられずに過ごしていたが、3人の男子に廊下の階段前で腰を蹴られ始めた。3週間後、『学校来るな!』と書いたラインが送られてくるようになり、翔は図書室で他の人に見られないよう泣きながら過ごすようになった。
6時間目の授業を早退し、帰宅した後に自室で『いじめがつらい』とタルトに言って泣き出したんだ。2週間学校や自宅にも姿を見せず、母親と7歳の妹が似顔絵を描いて鎌倉警察署前に貼ったりもしたが、『釧路湿原で11歳男子の遺体発見』というニュースが入った。
両親と妹、父方の祖父は釧路市の警察に電話し、遺体が翔だと知り号泣した。遺品になった新緑色のリュックサックに、翔が好きだったブルーベリータルトが4個入っていた。
石段の上に座り込んでいるのは『川に転落しろ』とラインを送り続けた寺原凛だ」
源次郎は号泣し始めた凛に「ラインやパソコンで書かれ、送られた暴言は相手を苦しめてしまう」と言った。凛は渡された新緑色のタオルで顔を拭きながら無言でうなずき、タルトと直美に頭を下げた。
「タルト。直美や亮介、美月たちと暮らすようになって、内面は変化したか?」と聞かれ、「はい。亮介のドラムを聴いている時、翔を思い出すんです。朝になるとわたくしが出すドラムの音で起きて、学校に行っていましたから」
「ドラムの音は田原家からこの寺まで響く。『紫いもタルト』のライブや餅つき、運動会など温泉小の行事で多忙な亮介を、不眠症にしないようにな」と言い、源次郎は石段の上で足踏みしている直美にカイロを渡した。
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