29話 ムートと大貴、亮介と緑色の封筒
僕は小町通りの古本屋で店主の町原知子と暮らすメンフクロウのムート。彼女は「読んでいないと落ち着かない」と言って、買った40冊の本を机の上に置き読んでいる。2年前、本屋が閉まっていた時は自宅で200冊の本を読みふけっていたらしい。
読み始めると来店したお客さんが来ても気づきにくく、僕が500円玉や1000円、1万円札などをレジに入れることが多い。
外に出ることが減って自宅で本を読み過ごす人が増え、この古本屋にも小中学生や高校生たちが来ることが多くなった。
―――水曜日、銭湯高校3年で放送部の三橋大貴くんが来店。辞書や柴犬などの形をした本が店員の本屋で一緒に働く本好きの女子高校生が表紙に傷がある本の少女と出会い励ます、三萩せんや著『神様のいる書店 冬を越えて咲く花』(角川文庫)を読み始めた。
鎌倉駅でナイフを持った男から24歳の会社員の女性を逃がし腕に負った切り傷は治って、強一や静人先生と一緒に校内放送や鎌倉駅での見回りや呼びかけを続けている。
椅子に座って小説を読んでいた亮介さんが、「俺は18歳から、温泉小の音楽教師として音楽室で小学生たちと一緒に演奏や熱唱をしてきた。
ヴォーカルとドラマーを続けていけるのか、不安なんだ」と湯気が上がっている緑茶を飲みながら小声で言った。
児童書を読んでいた明人が「イギリスに住む男性からだ」と国旗が描かれた緑の封筒を亮介に渡す。
3枚の便箋にはイギリス英語で『こんにちは。私はロンドンでストリートライブをしている19歳のh・mです。
14歳から学校に行けず過ごしていましたが、同じバンドメンバーでギター、ペインター、ドラマー、カスタネットの5人と一緒に『紫いもタルト』の曲を聴き号泣し、ケーキ屋や紅茶店で英会話や漢字の勉強を始めました』と書かれていた。
明人が亮介の肩をたたき、「ライブハウスで作る曲を、毎日バンドメンバーの5人と一緒に聴いてくれてるらしい」と笑みを見せた。
―――夜8時。『速報が入ってきました。都内に住み、2019年に鎌倉で活動するロックバンド『紫いもタルト』の5人に暴言を20回送った42歳で無職の男が自宅で10匹のオスバチに腕を刺され失神し、鎌倉警察署へ送られたということです』
居間のソファーに座って直美や美月と一緒にニュースを見ていた亮介のスマートフォンの画面に明人と賢の顔が映り、『横浜の赤レンガ倉庫でライブやってた時に怒鳴りながら亮介に近づいてきて、マイク折ったやつだな』『22歳からパソコンを凶器にし、暴言を送り続けていたらしい』とため息をつく。
亮介は二人に手を振ってスマートフォンを温泉小やライブハウスでも使っている紺のリュックサックに入れ、寝室で直美と一緒に児童書を4冊読んだ。
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