28話 子どもたちに教えたいことと、寺での再会


 12月31日、午後3時。小学生たちが帰宅した後、温泉小の会議室では20人の教師が集まっていた。


「学校で過ごす子どもたちに、教えたいことは?」温水がホワイトボードの前に立ち、全員を見ながら聞く。

 

 「私は『相手の困っていることや、つらい気持ちを聞くこと』です。小学6年生の女の子がカウンセリングルームに毎日来ているんですけど、雑談の後に『自宅でお母さんに怒鳴られてつらい』と言っていました。

 受験や家族、同級生とのことなどで苦しい気持ちになっている子が多いです」

ジルが言い、ホワイトボードに『相手の困っていることや、つらい気持ちを聞くこと』と書いた。


「俺は『運動会での大玉転がしや100メートル走、サッカーやテニスの試合などに参加している子を励ます』ことです。

 今年の5月に、運動会の100メートル走で最終走者になった小3の男子が赤のバトンを地面に落とし、ゴールテープの前で転倒していました。

 汗だくになりながら地面に座り込んだ男子は「あいつ転んでんじゃん」「バトンも地面に落として3位?」と同級生の5人から大声で笑われたんです。


 俺は職員室で5人に『ひざから出血しても走ってたぞ。なんで励まさない?』と聞いたんです。『走るの遅いし、転ぶことが多いから』と答えた一人に、『運動会までの2週間、夕方5時まで校庭でハチマキを持ちながら走ってたんだ。

 笑ったこと、謝ったほうがいいぞ』と言ったら翌日、教室で児童書を読んでいた男子に『ごめん』と謝っていました」

 鷹野がホワイトボードに『運動会での大玉転がしや100メートル走、サッカーやテニスの試合などに参加している子を励ます』と書いたところで会議が終わり、20人が退室した。



 ―――午後4時。亮介がため息をつきながら寺に行くと、黒いパーカーと濃い緑のワイシャツ、青のダウンコートにベージュや紺、白のジーンズをそれぞれ着た24歳の男性3人が寺の前で一礼していた。10年前、寺の前で美月にペンキをかけていた3人だ。

 後ろから肩をたたくと、「亮介か‼」と言い地面に座り込む。「絵馬に何を書いてたんだ?」と聞くと「働いてる飲食店の客が減って夜8時までしか開けられないから、『常連さん、戻ってきてくれ』と書いてたんだよ」と濃い緑のワイシャツと紺のジーンズを着た一人が答えた。

 「魚のフライやチーズ、ベーコンなどを食べながら日本酒やワインを飲み、しゃべる客が少なくなった。俺の店には二人しか来ない」と黒パーカー、「売り上げ金がなくて、ガスや電気代が払えない」と青ダウンコートが言い「東京都の出す100万円、いつ店に入るんだ‼」と絶叫した。

 

 源次郎が桶に入れた水で顔を洗い、落ち着いた3人は絵馬を僧の男性に渡して寺の石段を下りて行った。


 

 

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