27話 猛雄とウクライナ人女子高校生


 ―――12月27日、朝7時。日本に住み横浜の高校に通う16歳で背中まである淡い金髪に青い目のウクライナ人女子高校生リーナは横須賀線の座席に座り赤、黄、黒、白の薔薇が市民を襲う世界に来たヒロインのオリハ(オリヴィア)が薔薇騎士として奮闘し内面が変化していく『オリヴィアと薔薇狩りの剣1、2』(天川栄人著、角川ビーンズ文庫)を読んでいた。


 灰色のスーツと茶色いベストにズボンを着てドアの前に座り込み缶ビールを飲んでいた54歳の男が後ろから近づいてきて、「遊ばないかい?」と言いながらリーナの肩を触ろうとする。

 180センチで18歳の男子高校生に足をつかまれた男が転倒し、紺色のマスクをあごまで下げて乗客たちに未開封のビールの缶2本を投げ、座席を蹴りながら怒鳴る。

 男子高校生は停止ボタンを押した後、床に押さえつけた男を電車内にいた男性警察官に渡してから下車した。


 

 「ありがとう。私はウクライナ生まれのリーナ」リーナが鎌倉駅内で男子高校生に言うと「俺は鎌倉にある銭湯高校の3年でレスリング部の白波猛雄」と自己紹介し、電車内の座席の上にあった2冊を彼女に渡す。

 

 駅内に置かれてある青と緑の椅子に座ると、猛雄が紫色のリュックサックから出したカイロをリーナに渡しながら「寒いな」と話しかけてきた。リーナは「うん。ネギ入りのさぬきうどんが食べたくなる」と嬉しそうに答える。

 「さぬきうどん好きなの?」「うん。サンマの塩焼きも」小声で話していると、胸元に桶が描かれた白の制服を着た銭湯高校ラップ部の男子20人が「猛雄。9時から漢字の再試験だ」と猛雄の肩をたたく。

 「遅刻しちまう!駅内や改札口などで怒鳴る人が多いから、気をつけて」と言い、ラップ部の男子20人と一緒に改札口へ向かおうとする猛雄のほおに、他の乗客たちに見られないようキスをし手を振ると、顔を赤くしながら満面の笑みを浮かべる20人と一緒に改札口へと向かった。



 同日、午後3時。リーナが知子の古本屋で児童書を読んでいると、漢字テストを終えた猛雄が店内に入って来た。

 「漢字テスト、どうだった?」「再試験だって。漢字は書かずにいると忘れる」と答え、猛雄は知子がカップに入れた湯気の立つ緑茶を飲む。


 「猛雄。付き合って」リーナが言うと、「……勉強苦手だし、毎回再試験になってるけどいい?」と小声で聞かれ「うん」と顔を赤くしながら緑茶を飲み答える。

 「ありがとう」猛雄は嬉しそうな笑みを見せ、メンフクロウのムートがかぎ爪で持ち渡した革の本の形のしおりをリーナに見せる。


 「ムートは本好きの人に、棚から1冊を紙袋に入れて持ってくるんだ」二人はムートから渡された小説と児童書を買い、知子に500円玉と1000円札を渡して店を出た。

 

 



 


 

 

 


 

 

 

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