25話 クリスマスライブでの熱唱
12月25日、午後6時。亮介と賢、明人と真、勇樹の5人はライブハウスの入り口前でカイロを持ってパイプ椅子に座っている美奈やマオ、銭湯高校の白波猛雄たち20人に向かってマイクを持ち、ドラムをたたきながら絶叫の少ない2曲を熱唱する。
美奈のほうをちらりと見ると、にっこり笑った紫いもタルトが描かれたタオルを振り、カップに入ったレモネードを飲みながらマオや猛雄たちに笑みを見せている。
「亮介先生たちのライブでは勇樹さんが色鉛筆と筆を使って、スケッチブックに絵を描くんだ」
博人が美奈やマオたちに嬉しそうな顔で言っているのが聞こえ、明人が「勇樹、今日は何を描く?」と肩をたたいた。
『彼女に舞台に上がって、歌ってもらいます‼』真が言うと、美月が舞台の上に来て明人から渡されたマイクを持った。
照明が消え、驚くマオや猛雄たち。オレンジ色のフリースから胸元に黒い革表紙の本が描かれた銀と青のコートに着替えた亮介は階段の前に置かれたドラムをたたき始め、美月は夫の後ろに立ち、『音楽祭』でも歌った6曲を一緒に熱唱する。
アリアと博人、美奈が「学校が閉まっている間、家で聴き続けてたなあ」と小声で言い、泣き出す。
勇樹が筆2本と色鉛筆6本を使い、舞台の上に置かれた木の机にスケッチブックを乗せ絵を描き始める。
くちばしを開いて笑ったような顔を見せるムートと、机の上に止まりドラムの音をくちばしで出すタルトの絵に、「わ―――‼」と歓声が上がった。
『勇樹は鳥の絵を描くことが多い。実家でも『塩せんべい』って名前でメスの黄色インコを飼ってる』舞台の上で明人が勇樹の肩をたたくと、椅子に座っている20人が噴き出す。
『亮介さんが着ている銀と青のコートは、僕が『紫いもタルト』のライブハウスで縫いました‼』真が20人に向かって言うと、拍手が起こった。
―――夜9時。ライブを終えた美月に、源泉中テニス部で14歳の男子中学生4人が「歌姫‼」と嬉しそうな顔で手を振って来た。
「こんばんは」「こんばんは!源泉中の放送室でも、歌姫の曲が入ったCDを持って来て給食の時に流してるんです‼」と紺のメガネをかけた黒い短髪の雄一が肩掛けカバンから出したノートを彼女に渡し「サインを書いてくれませんか?」と聞いてきた。
美月がページにサインを書き、雄一に渡すと「ありがとうございます!」と満面の笑みを見せ鎌倉駅へと向かって行った。
「直美。誕生日おめでとう」亮介は娘に10冊の児童書が入った紙袋を渡す。「ありがとうパパ」直美は満面の笑みを見せ、亮介や美月と小町通りに入る。
緑色のしおりの形の髪留めで茶色い髪を結んでいるアイリーンと手をつなぎ歩いているルークが、知子の古本屋の前で彼女のほおに自分の唇をつけた。
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