23話 栄三郎の謝罪と美奈の号泣


 美奈の父で43歳の栄三郎は病室で『美奈 俺はお前が13歳になる時には、お前が2歳の時に36歳で死んだ母美花と一緒に過ごしているだろう。

 お前に会いたい。亮介先生と美月先生と一緒に、病院まで来てくれ』と書いた便箋を封筒に入れ、郵便局員に渡した。


 「美奈、お父さんから手紙が来てる」美月と一緒に『リート新聞』を印刷し終えたキャスィーが、温泉小の職員室前に置かれていた封筒を美奈に渡す。美奈は手紙を持ち、亮介と美月と一緒に病院に向かった。

 

 

 「お父さん」「美奈。来てくれたんだな」栄三郎は娘の背中まである黒髪をなでながら笑みを見せる。薄かったあごひげが伸びていた。

 「今年の6月に美花とやっていた小籠包店が閉まってから、帰宅しても話さなくなっていたな。

 俺は友達と一緒に遊んだこともなく、勉強だけして過ごし続けた。57歳で死んだ母親は俺が外出しようとすると激高し、自宅にあった椅子で俺の肩や腕をたたいていたんだ。夕食を作ってもらったこともなかった」

 

 

 24歳だった美花と出会ったのは31歳の時で、彼女の実家である小籠包店で小籠包を一緒に作り食べ、結婚したんだ。

 お前の名前は母美花が『旅行で見た北海道のラベンダー畑や波しぶきのように、美しい子になってほしい』という気持ちで『美奈』とつけたんだ。最期にこんなこと言うと、美花に怒られるな」


 栄三郎は亮介と美月に「娘の長所を見てくださり、ありがとうございます。温泉小の音楽室で博人や他の子たちと一緒に熱唱する美奈を見て、病室で泣きました」

 せきこみながら床に倒れて失神した栄三郎に20人の女性看護師が駆け寄り、集中治療室で「聞こえますか‼」と呼びかけ胸を押し続ける。

 


 ―――午後4時。栄三郎は遺体となり青いビニール袋に入れられた。「お父さん!お父さん‼」椅子に座り込み号泣する美奈の肩に、美月が看護師から渡された毛布をかける。

 幼なじみで読書家の佐原博人に肩を後ろからたたかれ、目からしたたり落ちる涙で視界がかすみ始めた。

 「さーちゃん。ごめんなさい」博人は美奈と手をつなぎ、タオルで顔を拭く。亮介や美月の泣き声が、集中治療室の前に響いていた。



 亮介や美月、泉二郎たちと一緒に栄三郎の葬式を終えた博人は美奈の自宅で栄三郎が撮っていた北海道のラベンダー畑や波しぶきなどの写真を彼女に見せていた。清流や波しぶきを見ながら満面の笑みを見せる栄三郎と美花が映っている。

 「漁師さんが獲ったサケを、塩焼きにして食べたんだって」「キタキツネやフクロウ、ヒグマだ」デジカメで撮られた写真は40枚あった。


 「美花おばさんのお墓に供える花、買ってこないと」「……うん。ありがとう」美奈は博人と一緒に花屋に行き、ラベンダーの花を4本買って母のお墓に置いた。


 

 

 

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