21話 ルークとアイリーンと寿司づくり
―――12月1日。ルークはアイリーンと一緒に小町通りを歩きながら、「7歳からロンドンでアイリーンや他の子と一緒に、劇団員として劇をやったなあ」と小声で彼女に言う。
「うん。セリフを暗唱してた茶色い髪と新緑色の目を持つ男の子がいた。ロンドンでストリートダンスをやってるって」二人は手をつなぎながら小町通りを歩く。
「ロンドン市内の通りに、大阪生まれの50代の男性が作る寿司屋があり長蛇の列ができるらしい。17歳で日本に来て、銀座で寿司職人としてマグロの握りやアナゴ寿司などをお客様に出したな。
店が閉まった時は3週間、何もする気が起きなかった」と小声で言うルークの肩に手を置き、アイリーンは「あなたが作るお寿司はおいしい」と笑みを見せた。
「勇太、ママの荷物持ってよ!足遅いわね‼」ベージュのスーツを着てカブやホウレンソウなどの野菜を入れたビニール袋を持った30代の女性が、緑色の手袋を着け黄色のフリースと茶色のジーンズを着た小2の息子に怒鳴っている。女性は転倒した息子を見ずに、鎌倉駅の改札口へと向かった。
ルークとアイリーンが男の子に駆け寄ると、「家でママにたたかれてる」と泣き出した。ルークは男の子の出血しているひざに包帯を巻き、リュックサックから出したタオルを渡す。
雑貨屋のオスのインコ、グリーンティーが屋根に止まり喜多修平の『一斉の声』を熱唱する。歌詞を聴いた母親が改札口前で号泣し、息子のところへ戻って来た。
「鎌倉警察署で、秋次郎さんに困っていることを話したほうがいい」
母親は「はい。ありがとうございます」と答えてルークとアイリーンに頭を下げ、息子と一緒に鎌倉警察署へと向かった。
「女性は飲食店の店員だったが失職し、1年前から家で過ごすようになって怒りをこらえられなくなり、息子をたたいていた」グリーンティーがルークとアイリーンに小声で言う。
「ルーク、『子ども食堂 キンモクセイ』でマグロの握りや炙りサーモンなどを作ってほしい。勇太は寿司好きなんだ」とグリーンティー。ルークは「勇太くんや他の子にも作る」と答え笑みを見せた。
―――同日、夕方5時。『子ども食堂 キンモクセイ』ではイカやイクラ、アナゴなどの寿司が机の上に並び、店内に入って来た勇太や小中学生、高校生たちが「わ―――!」と声を上げた。
亮介と賢、明人たちが箸や小皿を机の上に置いていると、勇太がルークの作ったマグロの握りを見て嬉しそうな顔になった。
「食べていいよ」「いただきます‼」マグロの握りを食べた勇太は「おいしいでーす‼」とルークに向かって言う。
「おいしかった」「また作りに来てください‼」寿司を食べ終えた他の小中学生や高校生たちに、ルークは「ありがとう」と満面の笑みを見せた。
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