18話 教師たちのストリートダンスと、古本屋の新聞記事
11月3日、午後1時。温泉小の1階職員室前では温水と泉二郎、亮介とジュード、ジルが集まっていた。職員室内に置かれているCDプレイヤーから『ナルニア国物語第2章 カスピアン王子の角笛』の音楽が流れ始め、亮介たちは床の上で跳ねたり腕を素早く動かしながら踊る。
ビールが入ったカップが描かれた紺の手ぬぐいを振りながら「銭湯‼」と絶叫し跳ねる泉二郎に、2階の教室でイギリス人男性教師との英会話を終えたマオとアリアが噴き出した。
1年から6年生まで20人の小学生たちと一緒に踊り終えた亮介と泉二郎は汗だくになりながら椅子に座り込み、温水が紙コップに入れた氷入りのレモネードを飲む。
イギリス人の父ジェームズと同じ茶色い髪と新緑色の目を持つ小6の佐々木アリアが、「ロンドンにいた時、父と一緒に通りで踊ってたんです」とジルに満面の笑みを見せた。
―――昼12時。『紫いもタルト』のライブハウス前でも、鷹野陽二と大木静人が踊っていた。
「鷹野先生と静人先生のストリートダンス!」驚く小中学生や高校生たちに、「一緒に踊るか?」と呼びかける鷹野。
鷹野と静人の周りで満面の笑みを見せながら踊り始めたダンス経験者の20人に賢や明人、チーズとソーセージ入りのパンを食べている銭湯高校3年でバスケットボール部の石橋知也たちがライブハウスの2階や通りから大きな拍手と歓声を送った。
―――午後4時。亮介は銭湯から出て紺色のパーカーと黒いジーンズに着替え、美月と直美がいる知子の古本屋に入る。
「ストリートダンス、どうだった?」と聞かれ、「腕を振ったり、跳ねたりするのが速くて、10曲踊った後にふらついた」と答える。
知子が輪切りにしたレモンを入れた紅茶を3人に渡し、『カラオケ店で雷雨と雹の音、『ガンナイフ』の男4人逮捕の一助に』と書かれた新聞記事を見せてきた。
「タルトが雷雨、グリーンティーが雹の音を出していたんですね。2羽とムート、クローディアには感謝状が贈られてきました」知子は入り口に置かれた感謝状を亮介たちに見せる。
『古本屋のメンフクロウ ムート殿 あなたは2羽のインコとコミミズクのクローディアとともに、女性を誘拐した『ガンナイフ』の男4人逮捕の一助となったことをここに記す
2021年11月3日 鎌倉警察署 秋次郎とDJポリスより』と書かれていた。
「ありがとなムート」ムートは首を回してあくびをし、木でできた棚の中に入る。
「ムートの羽の形のしおりが、雑貨屋で売り出されるそうです」と知子。
「鎌倉警察署と雑貨屋に行ったら、クローディアやグリーンティーにも『ありがとう』って言わないと」「ああ」
亮介は妻の肩に手を置き、笑みを見せる。ムートは緑色のカーテンがかけられた棚の中で寝始めていた。
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