17話 カラオケ店とガンナイフ


 同日、午後3時。55歳の梅本誠一が「背中まである髪の女や」と小声で言い、銭湯高校に『リート新聞』を届け終えて横断歩道を歩いていた美月の背後から近づく。30代の男3人が彼女の腰に金属の板を当てて失神させ、寝袋に入れてカラオケ店へと向かった。

 

 亮介と賢、真は4人に気づかれないよう店の1階に入る。亮介は緑の短髪で23歳の男性、梅本道也に「温泉小教師の田原亮介だ。背中まである茶色い髪の女性が、個室内にいる」と言った。

 「探してきます。待っとってください」道也はジーンズのポケットから紺のボールペンの形をしたボイスレコーダーを出し、エレベーターで2階へと向かった。


 

 電気が消えている個室『203』内では梅本誠一が寝袋のズィップ(ファスナー)を開け、美月に顔を近づけていた。道也はドアの前に立ち、ボイスレコーダーの電源を入れる。

 『歌姫は美人やなあ』と言う父、誠一の笑い声が聞こえてきた。「(あかーん!亮介さんと賢さん、真くんに知らせな‼)」道也は電源を切ったボイスレコーダーをワイシャツの胸ポケットに入れ、1階へと戻り3人の肩をたたく。


 「亮介さん、賢さん、真くん!美月さんは『203』にいました‼」小声で言い、鍵を亮介に渡す。「ありがとう」3人はウーロン茶とコーラを熱唱するサッカー部の高校生3人の一室に運び終えた道也に手を振り、階段を上がって『203』に入った。

 亮介が美月の肩を後ろからたたき、寝袋から出す。「無事でよかった」と驚いている妻に小声で言い、息を吐き出した。

 廊下で40匹のハチの羽音が聞こえ、ドアの前まで来ると金属の板の形になり羽音を立てながら静止した。


 「ハチがいますよ‼」と階段を上がり2階に戻って来た34歳と30歳の男が言った直後、『203』内に置かれている机の下から雷雨と雹が降る音が聞こえて来た。

 驚く4人のスニーカーと雨靴の紐を、隣室から出てきたクローディアとムートが「(あなたたちみたいな人は嫌いなの‼)」「(亮介さんや直美ちゃんと一緒に古本屋で過ごしている美月さんを、不安にさせたな‼)」と怒りをあらわにしながらくちばしで切る。

 冷や汗をかきながら逃げようとした4人はハチに追いかけられて階段から転がり落ち、34歳の男が肩、33歳と30歳の二人は腕、梅本誠一が腰の骨を折った。



 1階に下りた亮介は椅子に座って氷入りの麦茶を飲みながら「ありがとう」と道也に鍵を渡し、笑みを見せた。(美月はアイスティー、賢と真はウーロン茶を飲んでいる)。

 道也は「お父ちゃんが3人の男と一緒に用意してた寝袋の写真も撮ってあるんで、秋次郎さんに見せます」と言って、青い短冊つきの風鈴を亮介と美月に一つずつ渡し、ボイスレコーダーを持ち鎌倉警察署へと向かった。

 

 

 


 


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