15話 キャスィーと鷹野


 温泉小体育教師で29歳の鷹野陽二は10年前から、源泉中の国語・音楽教師で25歳のキャスィー・ブルーフラワーに片思いをしている。


 大学を中退後、早朝5時から温泉小の校門前を10回走り、自宅近くの銭湯に入ってからハムとレタス入りのサンドウィッチやソーセージパンを食べ夕方5時まで公園内を走る、という生活を続けた。

 ベンチで長編小説を読んでいた亮介と公園内で出会い、『田原亮介だ。一緒に温泉小の教員にならないか?体育教師が退職したんだ』という話が出た。

 『『運動しに学校に行きたい』って言う子が多くてな。運動会で大玉転がしや100メートル走を、小学生たちと一緒にやってくれないか?』


 鷹野は温泉小の体育教師として小学生たちと一緒に校門の周りを走ったり、運動会に向け100メートル走の準備をしながら過ごし始めた。

 運動会の2週間前に源泉中に行った時、校門の前で15歳だったキャスィーと出会い、温泉小や源泉中の運動会で一緒に校内放送や餅つきをし親しくなった。

 

 

 ―――夜8時。美月と一緒に40部の『リート新聞』を温泉小の職員室で印刷し終えたキャスィーは鎌倉駅の改札口に向かっていた。肩まで髪を伸ばした灰色の半袖シャツに黒のズボン姿の40代男性が彼女に近づき、首を絞める。

 「助けて‼」と絶叫した直後、「キャスィー先生に何しやがる‼」と鷹野の怒鳴り声が聞こえ、肩掛けカバンを腰に当てられた男が転倒する。男は10匹のオスバチたちに腕を刺されて失神し、鎌倉警察署に送られた。


 「キャスィー先生」鷹野が駆け寄って来て、座り込んでいたキャスィーを立たせる。改札口を抜けて横須賀線に乗ると、キャスィーの体が震え始めた。

 鷹野が泣き出した彼女の肩に無言で手を置き、肩掛けカバンから出した紺のタオルを渡す。

 

 

 「11月15日に開かれる小町通りマラソン大会の実況をやると温水先生から聞きました」「火曜日の3時間目に2年生と3年生に渡す漢字テストを自宅で40枚作ってから、居間で暗記しています」

 キャスィーはタオルで顔を拭いてから、黄色のマーカーペンで線を引いた2枚の紙を鷹野に見せる。「すごい」

 「あと2週間で、参加者がかける10色のタスキも覚えないといけなくて」とキャスィーがため息をつく。

 「マラソン大会の実況、見ますね」鷹野が顔を赤くし言う。「はい。鷹野先生、ありがとうございました」キャスィーは満面の笑みを見せ、美月に手を振って電車を降り自宅へと戻って行った。


水曜日。源泉中の職員室で暗記を終えたキャスィーに、温水が「鷹野先生が職員室の前に置いていった。小町通りで買ったらしい」と言い10個のイチゴ大福が入った紙袋を渡す。紙袋には首からかけられるネモフィラの形の防犯ブザーが2個入っていた。


 

 

 

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