13話 マオのボール飛ばしと、僧の男性の実況


 温泉小4年で野球部の伊勢崎マオは寺に来て、源次郎に「20個ボールを打つと、1個が小町通りに飛んで行っちゃうんです」と言い氷入りの緑茶を飲んでいた。

 「ボールを打ってみるといい」源次郎は尾で紺色のグローブを持ち、僧の男性がバットを持って井戸の前に来た。

 カーン、と20個のボールが飛ぶ音と『この寺の前にボールを打った‼』という僧の男性のアメリカ英語での実況が境内に響く。小町通りへ飛んでいきそうになった1個は源次郎がグローブで捕え、マオに渡した。


 ―――昼12時。ボールを打ち終えたマオは首に保冷剤入りのタオルをかけ、塩からあげを食べながら「僕のおじいちゃんはワクチンに反対してるんです。プラカードを持って会場前で『ワクチンを打つな‼』って大声で言ってました」と僧の男性と源次郎に言う。

 「亮介と美月が会場に行った時、博人の両親に未開封のビールの缶を投げられそうになって券を踏まれたと言っていた。

 会場には息子や娘にワクチンを打つのに不安を持つ父親や母親、祖父母が集まって拡声器を持ち、看護師や医師たちを転倒させ怒鳴っていたらしい。

 強一と兄の慎一が『温泉小や源泉中の子たちも来てるんです!今すぐ拡声器やプラカードを地面に置いてください‼』『恥ずかしい‼』と激高し、30~70代までの40人が注射針の形になったハチたちに腕を刺され、秋次郎に逮捕された」

 源次郎が、ホウレンソウやニンジンが入った紙袋を和室内の机に置き言う。

 

 

 「ナイフで刺す、殴る蹴るといった事件が多いです。先週の夕方、和室で勉強中だった9歳の男子小学生が、30代の男にナイフで刺されそうになりました」と僧の男性がため息をつく。

 「男は境内にある絵馬に筆で青いペンキをかけ、夕方になると『帰宅しろ‼』と勉強している小中学生や高校生たちに怒鳴っていた。

 俺が背後から近づいて尾で腰を打つと『ああ―――‼』と悲鳴を上げ、階段から転がり落ち鎌倉警察署に送られた」



 「僕が20個のボールを打っている時、英語で話してました」マオが言うと、「私は18歳から24歳までアメリカで過ごし、英語を聴いてたんだよ」と僧の男性が答え、スマートフォンで撮っていたポップコーン店や文房具屋などの写真を見せる。

 「文房具屋の入り口に、黄色と緑の羽のインコが止まってますね」「来店した人がノートやスケッチブックを買うと、くちばしで紙袋にシールを貼ったりリボンをつけたりしていたよ」と言って、聞き取った英単語や聴いたラップ音楽などを書いた1冊のノートを開く。

 黄色と緑の羽のインコが絵の具で描かれたノートには、『飼い主の男性のラップ音楽を聴いて遠吠えしていた黒と茶色でメスの柴犬2匹が、私に向かってしっぽを振った』と英語で書かれていた。

 

 

 

 

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