12話 ミール姉弟とストリートダンス


 温泉小カウンセラーでイギリス出身、肩までのベージュの髪と新緑色の目を持つ22歳のジル・ブライト・ミールと茶色い短髪で180センチ、社会科教師の弟で19歳のジュード・フォレスト・ミールは亮介や温水と一緒に音楽室でストリートダンスの練習中。

 「ダンスダーンス!」満面の笑みを浮かべ10曲を踊り終えたジルに、温水が水筒に入れたレモネードを飲みながら「11月3日に10曲を職員室前や『紫いもタルト』のライブハウスで踊ったら、ふらつきそうだな」と小声で言った。


 校庭では首に保冷剤入りのタオルをかけた野球部の40人がボールを打っている。カーン、という音と「マオのボールが小町通りに飛んでった‼」と男子たちの声が聞こえてくる。

 「7月の県大会に向けて、夕方5時まで練習してるらしい」ジュードが姉に言うと、「清涼飲料水やお茶を水筒に入れて持って来てる子が多いよね」と答えた。


 漢字テストに向け、図書室で漢字を20個ノートに書き終えた直美と小6で12歳の梅、銭湯高校で20人の再試験を終えた泉二郎が入って来た。

 「父は『鰯』や『鮪』など『魚』がつく漢字が好きで、寿司屋に行くと炙りサーモンやアナゴなども食べながら緑茶を飲み、店内の漢字を読んでいます。

 通りや看板に書かれている漢字をスマートフォンで撮り、自宅にあるノートに書いて読みがなを振ってくれます」と梅。父アーノルドの青い目と、母聡美の背中まである黒髪を持つ女の子だ。

 「泉二郎、一緒にストリートダンスをやってくれ。運動になるから」と言い、温水がCDプレイヤーの電源を入れる。泉二郎は汗だくになりながら梅や直美と一緒に10曲を踊り終え、木の桶が描かれた手ぬぐいで汗を拭き床に座り込んだ。


 「ジュードは何で音楽室でストリートダンスを練習してるんだ?」亮介に聞かれ、「ロンドンに父親がイギリス人、母親が大阪生まれの日本人で14歳からストリートダンスを始め、観客から大きな拍手を送られている女性がいるんです。

 彼女には負けたくなくて、2年前に姉と一緒に温泉小に来てから毎日夕方の5時まで、一人でストリートダンスをやり続けています」ジュードはチーズとハム入りのサンドウィッチとサケ入りのおにぎりを食べながら言った。

 「兄さん、ビール」「自宅で5杯飲んでるだろ泉二郎」亮介と直美、ジュードが噴き出す。

 「授業より銭湯に行くことが多い。小町通りマラソンに向けて砂浜を走る時も、終わるとすぐ『ビール』って言う」と言いながら温水はリュックサックから出した自家製レモネードをコップに入れ、亮介たちにも渡す。

 「レモネード大好きなんです」嬉しそうに飛び上がるジルに、「ポットに入れてカウンセリングルームにも置く」と温水が小声で笑いながら答えた。

 

 

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