11話『梅田の最悪な小学生たち』と強一の『ローボイス』
10月22日、午後4時。「強一、『梅田の最悪な小学生たち』が海子を階段から落とそうとしたと鷹野先生から電話があった。温泉小の放送室に行ってくれ」「はい」校内放送を終えた強一は白いブレザーと黒いベストを着て赤いネクタイをつけてから、温泉小の放送室に入りマイクの電源を入れた。
3年1組の教室では梅田聡子、青木坂子、木原森子、市原美子が絶叫する海子を階段から落とそうとし泣かせた後、「顔に泥水かけない?」「廊下の階段で転倒させたい」と小声で話し笑っている。
美子と森子が泥水の入ったバケツを持って海子に近づこうとした時、2階の放送室から強一の声が流れてきた。
『俺は銭湯高校の高見強一。梅田聡子、青木坂子、木原森子、市原美子。3年1組の廊下内と階段の上で海子の腕を殴り、蹴ったとジュード先生が激高していた。
彼女は母親で36歳の冬子さんと一緒に暮らし、付き合っている45歳の『うろつき男』に洗濯機に入れられ病院にも連れて行ってもらえなかった。海子に謝れ‼』
怒りのこもった低い声が、3年1組の教室に響く。強一は無言になった4人に向かって、聴いている人を怖がらせる低い声で笑い続ける。
冷や汗をかきながら「ひぃ」と小声で言う4人の顔や髪などに、バケツに入った泥水がかかり「嫌―――‼」と絶叫し失神した。
放送室から出た強一はブレザーのポケットから緑色と黄色の風鈴が描かれたハンカチを出して手や首からしたたり落ちる汗を拭き、泣き出した海子の肩に両手を置いて笑みを見せながら「海子ちゃん。4人は転校するらしいよ」と言った。
兄・慎一からの電話に廊下に出ると、『強一!小2女子たちに『ローボイス』聴かせたの⁉海子ちゃんの泣き声が聞こえてくるんだけど』と驚かれる。
「『梅田の最悪な小学生たち』が、海子ちゃんを泣かせた」と答える強一に、『彼女まで泣かせてどうする!』と激怒する慎一。
強一は海子にリュックサックから出した水色のタオルを渡し、「4人は休み時間に鷹野先生や温水先生に気づかれないよう、海子ちゃんを蹴ったとカウンセラーのジル先生から聞いたんだ」と言って椅子に座らせる。
「ママと一緒に暮らす、ほおにナイフの絵を描いたお兄さんにベルトと一緒に洗濯機に入れられて、出してもらえなかった」海子は小声で言い、水色のタオルで顔を拭く。
「じょうぎとようかんは、海子ちゃんが来ると嬉しそうな顔になる」強一が海子に背中をなでられ、足を伸ばして寝息を立てるじょうぎとしっぽを回すようかんの写真を見せると、海子は満面の笑みを浮かべた。
海子の母親冬子と『うろつき男』は寺で激高し目の色が青から緑に変わった源次郎に尾で腰を打たれた後に逮捕され、海子は北見夫妻の養子として一緒に暮らし始めた。
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