8話 亮介と白木直人
―――10月6日。音楽室で美奈や純一たちと演奏を終えた亮介が温泉小の校門から出てくると、長さ5センチの茶色い短髪でオレンジ色の半袖シャツに灰色のズボンを着た27歳の白木直人が直美と一緒に雑貨屋に入っていく美月をちらりと見て「歌姫」と小声で言うのが聞こえた。
「おい。美月に見とれるな」亮介の凄みのある低い地声に、直人は真っ青な顔で「……はい」と答え17歳から続けているレスリングの練習へ向かった。
昼12時になって、気温が39度まで上がった。亮介は荒い息を吐き、ふらつきながら美月と直美が待つ雑貨屋へと入る。ようかんやイチゴ大福などの和菓子が好物で雑貨屋店主の50代男性と、源泉中カウンセラーの滝温水が「熱中症か」と言い亮介を2階へと連れて行く。
男性が保冷剤入りのタオルを亮介の首にかけ、1階へと下りていく。亮介は壁に吊るされている紺と白の波が描かれた風鈴の音を聴きながら寝始めた。
「ア―――‼」「うわあああ―――‼」亮介は絶叫し、冷や汗をかきながらベッドから起きる。緑色の羽を持つオスのマメルリハが、机の上に止まって亮介を見ていた。
「グリーンティー!」男性の声に、グリーンティーは「ハハハハハ」と小声で笑いながら1階へと下りていった。
「驚かせた。グリーンティーは2階に人が来ると、大声で鳴くんだ」男性が亮介に頭を下げ、温水が氷入りの自家製レモネードを入れたカップを渡す。亮介はレモネードを飲み、息を吐き出した。
「グリーンティーは通りや駅内、自宅の屋根に止まって息子や娘を怒鳴りたたいたりして泣かせる父親や母親に1曲を熱唱している。
6年前に妻と別れたあと、一人で育てていた小学6年生の息子を通りにあるマンションの一室から落とそうとしていた43歳の父親が熱唱を聴き終えた後号泣し、息子に『ごめん』と謝り抱きしめていた。
息子は父親と離れ、ロンドンの学校で寮生活中だ」
「直人は温泉小や源泉中、この雑貨屋に来て時計を修理してる。今年の9月に源泉中2階の教室にある時計の針が外れた時、15分で修理を終えた。鳥好きで、愛車の中にはメンフクロウやイヌワシが描かれた毛布やクッションなどが置かれている。
昼になるとイギリスのラジオ番組で英会話を勉強し、ハムとトマトのサンドウィッチを食べる」温水が言った時、美月と直美が2階に入り亮介に駆け寄ってきた。
「亮介!」「インコのグリーンティーに大声で起こされた」と亮介が言うと、美月が息を吐き温水と男性に頭を下げる。
「ありがとうございました」「亮介、熱中症にならないようにな。カウンセラーもやっているから、相談があったら来るといい」
3人は男性から渡されたようかんとイチゴ大福入りの紙袋と名刺を持ち、雑貨屋を出て帰宅した。
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