7話 賢と鷹野と小学生たち


 午後4時。『子ども食堂 キンモクセイ』には賢と温泉小体育教師の鷹野陽二と、小学生から高校生までの20人が集まっていた。

 

 「2週間前の『ビーヘイバー』で、佐田と松谷はお前たちにいじめをしたことを悔い謝った。佐田は砂浜に押し倒されて失神し、4週間入院していたんだ」と鷹野。

 「『前に行っていた小学校で、大声で笑いながら同級生だった20人を椅子でたたき続けていました。会ったら謝りたいです』ってルークさんと俺に言った」と賢。

 驚く小学生たちに、「温泉小内でお前たちの書いた記事を見た佐田の弟、賢人や松谷の妹、夕陽たちが号泣してる」と鷹野が一人一人の顔を見ながら言う。


 「答えは教えないぞ。ひなたとひかり、賢人と夕陽にも謝ること」賢は小学生たちに小声で言い、机を拭いて豚汁としらすご飯を作り始めた。

 野球部の練習を終え5時に店内に入って来たマオが、ひなたを砂浜に押し倒した小5の男子の肩を後ろからたたき、「佐田は死んでたかもしれない」と小声で言う。

 「去年の4月に俺の弟がひなたに椅子で腕をたたかれ、泣きながら帰宅して部屋から出てこなくなった。『M・HとS・Hは最悪な女‼』という記事を、自宅のパソコンを使っていじめを受けた子と一緒に書いた」

 「記事を見たお前の弟が、温泉小の校門前で他の小学校の子たちに腰を殴られてた」賢と一緒にカブのスープを作る強一の言葉に、男子は驚く。

 「夕陽ちゃんと賢人くんも、同じクラスの子に泥水をかけられ号泣してた」とマオにも言われ、男子は冷や汗をかきながら無言になる。


 「美月先生、こんばんは」「こんばんは」店内に入って来た美月が、印刷し終えた『リート新聞』を机の上に置くと、漢字をノートに書き終えた小学生から高校生までの20人が読み始めた。

 「賢さん、瀧川ありささんの『Season』を流してください」と高校2年生の一人が言い、賢がCDプレイヤーの電源を入れると曲が流れ始めた。

 20人は明人と真が作った豚汁とカブのスープ、しらすご飯などを食べ終えて午後6時に『子ども食堂 キンモクセイ』を出た。


 20人は鎌倉駅内にいたひなたとひかりの肩をたたき、「佐田、松谷。ごめん」と頭を下げた。

 「どうしたの?」と驚く二人に「ひなた。俺、お前を殺そうと砂浜に押し倒して殴り続けた。賢人が悲しむかもしれないって考えなかった」

 「ひかり。私の妹は憎んでいたあなたの机に赤いペンキをかけ、それを見て泣き出した夕陽ちゃんに泥水をかけた」と小6の男子と小5の女子が言う。


 「ごめんなさい」ひなたとひかりが20人に向かって泣きながら謝ると、賢と亮介が後ろから肩をたたいてタオルを渡した。

 鷹野が「泉二郎先生は40枚手ぬぐいを持ってるらしい」と言うと、小学生たちが噴き出した。

 

 


 


 

 

 


 

 

 

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