6話 亮介と美月の出会い


 9月の『ビーヘイバー』で亮介から渡された銀色の三日月の髪留めを見た時、私は驚いた。25歳になった今も肩掛けカバンに入れ、温泉小の職員室や『紫いもタルト』のライブハウスで使い続けているハンカチに描かれているものと同じだった。



 滝原家は歌や暗記、勉強などそれぞれ得意なことを持つ子―――『ギフテッド』が多く、私は小1から『歌声が抜きん出ている』と言われていた。

 15歳の時、寺の石段の前で6曲を熱唱した後にオルカ中学3年で短髪の男子3人に顔や制服に青いペンキをかけられ、大声で笑われた。

 背中を蹴られそうになった時、ゴン、という音が境内に響いた。金属の板で腰を打たれた一人が「何すんねん!」と胸元にドラムが描かれた紺色の制服にズボン姿の男子高校生に激怒していた。



 「俺は寺で彼女の歌声を聴き、惹きつけられました。あなたたちが熱唱している彼女にペンキをかけ、大声で笑い続けているのを見て激怒したんです」と言った男子高校生に、長髪の二人が激高し殴りかかろうとする。

 石段の前にあった落ち葉をビニール袋に入れていた30代で僧の男性が3人を無言で見つめると、冷や汗をかきながら寺から出て行った。

 


 「おい」黒い短髪で背が高い19歳の男子高校生は石段に座り込んでいた私に近づいてきて、ドラムが描かれた緑色のハンカチとタオルを渡す。

 ハンカチとタオルで顔を拭いていると、「俺は田原亮介。3人は『ギフテッド』を憎んで、殴ったり蹴ったりすることが多い。

 夕方になるとこの寺で熱唱してるよな。名前、聞いていいか」と言って私の肩に手を置く。

 「ムズィーク中学3年、滝原美月。ありがとう」私は亮介に笑みを見せ、寺の階段を下りて駅へと向かった。

 


 

 ―――私の通っていた高校の音楽室で7月に亮介と再会し、午後3時から夜の7時まで音楽室から出ずにドラム演奏をしながら熱中症にならないよう水やお茶を飲んで過ごし、『音楽祭』では10曲を一緒に熱唱した。

 『音楽祭』後に付き合い始めてからは明人や真、賢たちと一緒にライブハウスで『リート新聞』を作ったり、ライブ後にバニラのアイスクリームやイチゴ大福を食べに行ったりした。

 『紫いもタルト』のライブハウス2階にも亮介の愛読書が20冊置かれていて、直美と一緒に読むことが多い。


 髪留めは温泉小や源泉中、知子さんの古本屋に行く時もつけている。百貨店の6階で開かれていた『ロンドン三日月展』で売られていたものらしい。

 温泉小の職員室でキャスィーと一緒にチーズを入れて焼いたジャガイモとドレッシングをかけたブロッコリー、サケの塩焼き入りの弁当を食べていた時、カウンセラーで鮪の寿司としらすご飯が好物のイギリス人女性ジル・ブライト・ミールが髪留めを嬉しそうに見つめていた。


 



 

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