4話 男子中学生の号泣と温泉小での事件


 2週間後。14歳の武蔵野佑樹は高見家の黒柴、ようかんに「俺は小学校に入ってすぐ父親に勉強を4時間させられていた。再試験の日は『帰ってくるな!』と怒鳴られ家に帰らせてもらえず、小町通りにある知子さんの古本屋でプリントのかっこを埋めて過ごした。

 小6から再試験が続いて勉強嫌いになり、新聞やネットの記事を見て事件を起こそうと考えていた」と教師や父親の秀一にも言っていなかった気持ちを吐露する。

 ようかんは佑樹を見つめ、黙って話を聞いていた。キャスィーの愛猫で茶色い短毛に青色の目のメス、ツユクサも佑樹に向かって「ンナー」と鳴き、ひざに乗る。

 佑樹は号泣しながらようかんとツユクサの背中をなで、「ありがとう。事件を起こしたりはしない」とタオルで顔を拭いて笑みを見せた。



 キャスィーが「ルークさん。砂浜に来る前にデジカメで撮った動画を見たいんですが、いいですか?」とルークに聞く。ルークがうなずくと、彼女は窓が割られた温泉小の動画を亮介や美月たちにも見せる。


 『Ḿ・HとS・Hは最悪な女‼』小学1年から6年までの小学生20人とその父親、母親たちが絶叫しながらハンマーやバールで3年1組の窓を割っている。

 M・H―――松谷ひかり。S・H―――佐田ひなた。二人の机の上には赤いペンキで『温泉小から出ていけ‼』と書かれていた。


 動画を見終え無言になった亮介と美月に、キャスィーが「20人はひなたとひかりに椅子でたたかれ、『M・HとS・Hは最悪な女‼』という新聞記事を書いたんです」とキャスィーが小声で言う。

 

 テントから出たひなたとひかりの前に、20人の小学生が立っている。「松谷、佐田!」二人はパイプ椅子に座りキャスィーから渡されたタオルで顔を拭き「ごめんなさい」と頭を下げた。

 「俺や他の子が泣き出しても、椅子で殴ってた!」白の半袖シャツと緑のズボンを着た小学6年の男子が怒鳴り、ひなたを砂浜に押し倒す。

 「佐田‼」亮介が絶叫しながら駆け寄る。ひなたはせき込みながらパイプ椅子に座ろうとし、失神した。


 「お姉ちゃん‼」「ひなた‼」ひなたの弟で小学1年の佐田賢人と両親が駆け寄ってきて、小学生たちとその父親や母親たちに頭を下げる。


 「娘のしたこと、謝らせてください!彼女を傷つけないでください‼」ひなたの母が砂浜に座り込み泣き出す。

 「謝ってんだからやめろ」鷹野に肩をたたかれた小学生たちが、ひなたに声をかけ胸を押し始める。

 

 ひなたは30分後に目を開け、両親や弟と一緒に帰宅した。小学生たちは4週間授業に出ず、鷹野と一緒に温泉小内で割れたガラスをビニール袋に入れた。

 ―――3週間後。50代の男性から『窓の修理費 800万円』と書かれた封筒が届き、鷹野と別の女性教師が窓ガラスを直した。

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

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