第15話
蘆田のオフィスの横の壁の何もない空間まで行き、蘆田が手をかざすと壁が少し浮いて通路が現れる。
「ぇ!?こんなところあったんですねってかめちゃくちゃ隠し通路じゃ無いですか・・・」
「まあまあ色々言いたいことがあるのはわかるから着いてこい着いてこい」
「はぁ」
出張と聞きつつ何故か隠し通路に通されて、朝から社長が待ち構えていたということもあり、鏑木は不安になりながら蘆田の後に着いて現れた通路に入って奥の空間へと進んでいく。
程なくして奥の空間には大きな樹の幹に埋まっているポットの様な物がある。S Fの映画に出てきそうなしっかりとした硬く、周辺にもパイプがつながっている。人一人が寝れる様な酸素カプセルの様な作りをしている。
困惑しながら鏑木が問いかける。
「なんすかこれ・・・?ってか、え?なんで鉄筋コンクリートの建物の中に樹木が・・・?ってかこの縞っぽい柄・・イチョウじゃない・・・このゴツゴツした感じは桜・・・?」
「お?!よくわかったなぁ。流石薪風呂で育った野生児。大体のやつはわからないんだがなぁ」
「でしょうね!桜の木は割るのが死ぬほど大変でしたよ・・・ってそんな話じゃなくてこれは何?っていう話なんですが?」
「まあまあ!入ってみて横になれば嫌でもわかるさ。お前様に調整してあるからすぐに入れるからさ!チャチャっと入れチャチャっと!」
というと背中に回って鏑木をぐいぐいと押しながら機材に近づけさせる。渋々しながら鏑木が機材の横までくると自然と扉が開き、まるで招き入れているかの様だった。
「はぁ、『士は己を知る者のために死す』か、諦めて行っちゃりますよ。何かあったら後は頼みますからね?」
「李白だったっけか?んな故事成語出すんじゃねーよ。生き様としてはわかるけどお前の為でもあるんだぜ?」
「俺の???」
「ハイハイ、締めっぞー!グッドラック鏑木。楽しんで来い!」
困惑が更に深まり意味不明な状態になってる鏑木を楽しむように蘆田は装置の扉を締め、機材をスタートさせる。
鏑木が中で何か言っている様だがよく聞こえないため、笑いながら小さな声で呟く。
「まだお前は人生丸くなるにははえーんだぜ?もっと好き勝手暴れてこいよ」
そういうと踵を返して部屋から出ていくのだった。
意識が遠のき、まるで何かに抱きしめられているようにほんのりと温かみがあり、小春の陽気で微睡んでいるような感覚に飲まれていると、小さな温かい手で頬を小刻みに叩かれている感覚が伝わって意識が呼び起こされてくる。
「・・ぇどの・・・えどの!・・・やーーえーーどーーーのーー!」
「ん・・・あああ?」
鏑木が目を覚ますと淡い桜色の髪をした幼女が眼前におり少し怒り顔で鏑木を呼んでいる。
「やっと起きましたね!全くお寝坊さんですね!困ります!お役目なんですからしっかりしてくださいね!」
とまるでプンプンという漫画的表現が出てきそうな雰囲気で捲し立ててくる。
「はぁ・・?え・・・ソメイヨシノ?小さい・・?ぇ・・・?」
「小さいいうなーーー!まだ枝分かれしてまも無いんですから仕方ないんです!ってあれもしかして八重さん違いですか?前回は奈良の方でしたが・・・紅枝垂八重桜さんですね!お初にお目にかかります。染井吉野「卯のろ」です!よろしくお願いいたします。」
10歳前後の容姿に淡紅色の髪色と瞳をしており、ゲームの容姿は全体的に20歳前後の落ち着いた成人をイメージされて配置されている。その為そのまま子供の外見に髪型もツインテールをしており、鏑木は既視感というか違和感を抱きつつ戸惑いを抱くのだった。
「奈良・・・は、たしか開発の方の八重桜のはず・・・役目・・・?」
困惑している八重桜の前に大きな桜の樹が目に入ってくる。
(これは・・・山高神代桜・・・なんでここに)
ゲームの設定上、関わる全ての職員は国花を一通り勉強している。その中で日本最古の桜といえば山形県北杜市の実相寺の境内にある「山高神代桜」である。樹齢は1800年〜2000年と国の成り立ちから自生し日本という国を見守ってきた桜である。桜の種類としては江戸彼岸桜の一種であり花弁の色は艶やかな白から紅色をしているが、その巨大な幹は歴史を感じさせる姿をしている。この場に佇むその姿は名前の通り神代の時代から存在する厳かでありながら、圧倒的な存在感を覚える気配を漂わしている。そしてその視線の端には神代桜を囲うように別の種類の桜が佇んでいる。そちらに視線を向けて品種の該当検索を脳内でしていると顔の近所で元気な声が突き抜けてきた。
「そうです!お役目です。私たち染井吉野を秋津の土地に根付かせ外的から島を守るのです。その為に十櫻であるあなた方、櫻に守っていただきながら目的地に連れて行っていただくのです!」
まるでドヤァという表現が浮かんできそうな表情をしつつ小さい胸を全力で前に出し自慢げな顔で鏑木に説明をする。
「ぇぇ・・・何どういうこと・・・マジで・・・よくわからん!教えて白雪さああああん」
状況があまりにも転換しすぎており軽く現実逃避をし始め、ゲーム内でのノリのように声を荒立てつつ本社のスーパーA Iの名前をついつい出してしまう。どうせ返答もないかとうっすら思っていると脳内に響く声が聞こえてくる。
(はい、八重桜さんいかがされましたか?たしか今は出張中とお伺いしておりますが、その様子ですと現地に到着されたのですね。では説明をさせていただきます。)
「はああああ?!脳内に白雪の声がああああああああ」
(落ち着いてください。初めてそちらに行かれる方は一部を除いて皆様同様の反応をされます。きちんとお教えいたしますので、一度深呼吸をしてください)
「あ、はい・・・」
そう言われると素直に深呼吸を初める。そして今度は自分の体の異変に気づき始める。開発室で横になっていた本来の自分とは違う視線や視力の高さ、体に慢性的にある痛みや怠さ、本当に別人の体のような感覚がある。
(少し落ち着きましたでしょうか?今八重桜さんが置かれている立場はとしましては、その幼い染井吉野の『卯のろ』が説明したことが大筋になっています。)
太白が淡々と事務的にまるでスマートフォンの契約をする時のように淡々と説明を始めていく。
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