第14話

「ふぁぁあああああ・・・・眠い、調子こきすぎたな・・・やっぱり独身の一人分の料理より複数人分作ったほうが楽しいわなぁ」

普段よりも数時間早く起き、双子の為に弁当と帰りが遅くなるかもと朝晩の料理まで作ってから出勤した為、盛大な欠伸をしながら電車を降り、本社に着いてゲートに社員証を掲げ警備員に挨拶をしながら普段のサポート課とは違う部署のエレベーターへ向かう。


「え〜と、開発室の方に一回来いって蘆田さんが言ってたっけ・・・ってあれ社長どうしたんですかこんな時間に?」


「おはよう鏑木くん」

眠そうにスケジュールを社用P D Aで確認していると社長の辰代が鏑木を待ち構える様に佇んでいた。


「確か社長、日中に経営会議とか諸々入って忙しいとか聞きましたけど、こんな早くから来てたんですね・・お疲れ様です。」


「ああ、会議資料とかはもう出来てるからいいんだよ。君に用があってね。」


「ぇ、なんですか・・・?うちの姪を嫁にとか言い出したら社長でもぶっ飛ばしますよ?」

と戯けたように辰代に言いつつ個人的に何か言われることがあったかと訝しげな顔をしている。


「君の家族愛はよく知ってるし、養子を取る気もないよ。今日出張に行くのが君と聞いてね。忠告というかアドバイスをしに来たんだ。」


「あー、ぇ。社長がそんな心配してくれるほどやばいとこなんですか?!」


「んーそうだねぇ、ある種そうとも言えるかな。『特に君の場合は』が付くけれど。」


「へ??なんですれ」


「恐らく君があの地に着き、仕事をしている時には実感が生まれると共に最高の高揚感を得られると思う。ただ忘れないで欲しいのは私もこの会社の社員も全員君の家族だ。君の血のつながった家族もいる。それを忘れないでほしい。ただそれだけだ。」


「よくしてもらってますし、経理も総務も開発もみんな同じ飯食って立場も関係ない間ですし、俺自身も家族のように思ってますけど・・・そんなハッピーな空間にいかされるんですか俺・・・」


「まあ君なら大丈夫だと思うよ。さあ行ってきなさい。11階で蘆田君が待っているよ。」


「はぁ」

困惑しながら着いたエレベーターに入りながら開発室に向かっていく。



本社11階 第五開発室

「パッチの時以外まず来ないんだよなぁこっち・・・この馬鹿でかいフロアに人が全員座って作業してるのは圧巻だけど流石にこの時間は誰もいないか・・・」


ただ広くワンフロアで数百メートルある広大なオフィスを普段の喧騒とした雰囲気とはまるで違う状態を見回しながらぼやいていると、奥からゴツゴツといった硬いブーツとジャラジャラとシルバーアクセサリーが当たる音が響いてくる。


「普段でも気がつくのに、こう静かだとめちゃくちゃわかるなぁ・・蘆田さんおはようございます!」


「いいだろう!自分でかっこいいと思ってるのを身につけて何が悪い!おはよう鏑木ぃ」

年代物のハードブーツに高額なクロムハーツから売店の物と金額や素材じゃなく、自分が気に入ったデザインのアクセサリーを相当数見につけて、朝で室内なのに薄いサングラスをつけながら鏑木の首に腕を回しながら蘆田が挨拶をしてくる。


名物プロデューサー蘆田、黎明期から辰代の右上として全幅の信頼から全ての舵取りを任され、常にユーザーの声を聞き、「全てはお客が楽しめるゲームを作る」を念頭に置いて運営の陣頭指揮をとる人物。社内の人間の人柄として働きすぎる部分や自分の持てる技術を全力で費やしてしまう人間が多すぎる為、帰らない社員を無理くり帰らし、勢いで作ってしまい難易度が跳ね上がったボスを諌めて修正させたり、実際に公式放送で率先してプレイするだけではなく、プライベートでもプレイヤーとして参加している、兄貴肌で苦労人な人物である。


「朝早くからすまねぇなぁ!この時間からじゃないと色々と不都合があってな。俺のスケジュールのせいってのもあるんだがさ」


「そら蘆田さんのスケジュール表を見たら納得しかないですよ・・・なんですかあれ・・毎回思いますけど俺らには休め!帰れ!って社内放送でブチ切れてるのに自分のスケジュールは昼休憩すらないじゃ無いですか・・・マジで体壊さないでくださいよ!いないと困るんですからね!」


「わーってるよ!親父(辰代)みたいなことお前までいうんじゃねーよ!ようやく次の芽も育ってきてるから今だけだよ今だけ!ってくっちゃべってる時間はそんなになかったんだわ・・奥行くぞ!奥!」


「わかってるならいいんですけど・・・奥?蘆田さんのオフィスですか?」


「いや、それより奥だ。まあ着いてきな」

そう言って会話を断つと徐に奥に歩いていくのを鏑木が着いていく。

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