第13話
第三事業本部・第5お客様サポート課・モニター室
「はぁ・・・」
操作用コンソールをデスクに戻しながら、後味が悪い表情をしながら大きな溜息を吐いていると同僚の柚木が心配そうに声をかけてくる。
「鏑木さん大きな溜息をつくと大きな幸せが逃げてくって田舎のおばーちゃんが言ってましたよ。ただ心中はお察しします。先程の件ですか?」
「柚木さぁん・・・いいんですよもう片足棺桶に突っ込んでるおっさんの幸せなんて・・・やっぱり子供に説教するとかなんか言うっていつやっても嫌だなぁ・・・」
「そうですね・・・自分自身の子供ではないですし、どこまで厳しく伝えていいか分かりませんし、伝え方によってはその子の人生に多大な影響を及ぼすかもしれない・・・特に若年層の子たちの指導は毎回悩みますよね・・・」
「甥っ子姪っ子とかと違いますし・・終わった後のケアも会社がケアしてくれるとは言えそれまで凪だった状況から一気に変わってしまうのは酷だと思ってしまうんですよね・・うちの姉の子供達がそうだったように・・・」
「大丈夫ですよ!優驪ちゃんたちの事だと思いますが、鏑木さんが甲斐甲斐しく世話してあげてたからあんなに表情が豊かになったじゃないですか。初め死にそうな顔で年頃の女の子で心を閉じてしまった子の相談された時と比べたら今ではあんなに表情豊かじゃないですか。少なからず成功例がしっかりと実績にあるんですから、優驪ちゃん達の為にも胸を張っていきましょう!いつも通り一人一人しっかりと見定めるのが私たちの仕事の一環でもありますから。」
カスタマーサービスが調査を行うほどの素行を起こした場合は人間性の精神鑑定や取り巻く環境まで細かく調査が入る。その上で起きている事実からなぜそうなったのかを、第三者機関と併せて照らし合わせ一方的な視点での決めつけが無いようにした上で、改善点をあげしっかりと更生ができるまでケアするのを行なっている部署が存在する。ゲーム内部だけではなく、各部署での顧客、社内に至るまで不当な苦しみが無いように必ず細かく見るようにすることを辰代は厳命している。特に社風というか社内の人間は凡そが不当な環境で働いている状態から縁があり、辰代に救われたこともあり簡単に無茶をしてしまう人物が多すぎる為、それを求めていない辰代となんとか恩を返してやろうという社員の心情の不思議な対立があったからである。
基本的に辰代の信条は「人は石垣、人は城」という武田軍の考えに近いものがあり、代表の自分は生み出すことは出来ても動かすことは出来ないことをよく知っている為、よくある経営の逆三角ピラミッドの底辺に自分がいるという認識をしている。社員は完全に虐げられた環境の長さから通常のピラミッドや縦社会の考えに陥ってしまっている為、感覚の齟齬が生まれてしまっているのが本人は問題だと捉えているようだ。
「流石柚木先生はちげぇや!」
「もーまたその先生はやめてください!辞めたんですからね!」
「はーい。んでもありがとうございます。少し軽くなりました。年上のおっさんなのに大変見苦しくて申し訳ないですよ」
「人間の心に年齢はあまり関係ないと思います。だっていつだって嫌なことがあったら飲みにいきたくなるじゃないですか」
「確かに!」
朗らかに笑いながらふと思い出した様に柚木が問いかける。
「話変わりますが、そういえば蘆田さんに呼び出されてましたよね?例の出張ですか?」
「あー多分そうかと思います。時期的に今度は自分だとは思うんですが、河津さんに朝のうちに甥と姪の世話があるから無理そうですとは伝えたんですよ。そしたら「大丈夫!」って言われて・・・日帰りになりそうな予感がします」
「あら、それは残念というかなんというか・・・あの子たちの世話好きだから複雑ですね。」
「そうなんですよおおおおお。まあそんなこともあるって事でいいかなって!ただ明日朝イチらしいので今日は定時で上がらせていただきます。」
徐にバックの中にデスクの私物を片付けながらテキパキと収めていく。
「時間指定は珍しいですね・・しかも朝って・・寄り道しないですぐ帰ったほうがいいですね!お疲れ様でした!」
「ありがとうございます。お疲れ様でした。と言っても甥っ子達のご飯の為に塊肉と魚をまるで買って帰らないといけないという・・・」
「おー!いいですねぇ!鏑木さんのご飯美味しいからうらやましいです。今度また誘ってくださいね。」
「優驪と優樹も喜ぶので全然お気になさらずに来てくださいね!と言っても村田さんの腕には全く届きませんが・・・」
「調理部の村田さんは星も取ったことある方なんですから仕方ないと思いますが、ただ鏑木さんの料理は高い料理じゃなくて家庭的なので私はすごい好きですよ!」
「度々ですがありがとうございます。また旦那さんと一緒に是非来てください!花奏ちゃんも一緒に来ていただければあの子らも喜びますでしょうし。」
「そうですね。出張が終わったら是非お願いします。ご近所ですしお伺いさせてもらいますね!」
「どうぞどうぞ!では今日は失礼いたします。」
話を切り上げながら退勤の処理をして上着を羽織りながら帰路に着くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます