第5話
「今日は本当にありがとうございました!初めは怖かったり、操作が間に合わないかと思って凄い不安だったんですけど、しっかりと教えて頂いたので自信がつきました。私は現実だと被服科の専門学校に行っていつか自分の洋服のブランドを作ってみたくて、叔母がその話を聞いてこのゲームならゲーム内で勉強できるからって勧められたんですが、ゲーム自体やったことがなかったので不安ばかりでしたが・・・八重桜さんのお陰で続けられそうです。」
「とんでもございません。業務内容に沿ったまでです。しかしながらフィリア様のその夢は素晴らしい物だと思います。老骨の身ではありますが心より応援させて頂きたく心よりご多幸をお祈り申し上げます。若い方のやりたいという気持ちはその若さだからこその物です。そのお気持ちを忘れずに抱いていらっしゃれば自ずと道は開かれていくと、私は考えております。さてそれでは一度街にもどって・・・・・」
二人が和やかな談笑をしていると複数のプレイヤーが大型モンスターを引き連れてこちらに向かってくるのが見える。
大型モンスターは明らかに手傷を負っており激昂していることが目に見えてわかる。そして大型モンスターはこの初心者がクエストで来る場所には場違いなサイズ感、詰まりはその複数で固まっているプレイヤーが意図的にこちら側に連れてきたということがわかる。
「なななななんですかあの大きいの!!!あれは・・あれもここのフィールドの敵なんですか?!」
「赤碗猿・・あれは初めにお話しした隣の高難易度のエリアボスですね・・・ここまで引っ張ってきたのでしょう。」
「えええ!?そんな一瞬で殺されちゃうじゃないですか・・・早く逃げましょう!」
「いえ、もう手遅れですね・・・ヘイトがこちらに向いてます。そうですねここでモンスターのヘイトについてお話をしましょうか、多くのゲームのヘイトですと攻撃を当てた者や回復をした者に自然といくのが普通なのですが・・・」
「もう目の前ですよそんな悠長なことを・・・!?連れてきた人たち戦う気ないみたいですよ?!大丈夫なんですか!?めちゃくちゃこっちに見て切り替わって向かってきてますけど・・・!!!」
「そうそう、そうなんです。HOTのヘイトで一番特殊な考え方は『一番の弱者を狙う』というのが最大の特徴です。詰まりは、この場合のヘイトの先は・・・・」
「『一番の弱者』・・・・・って私以外にいないじゃないですか?!もうすぐそこおおおおお!!!!八重桜さあああああああん」
「まあまあ狩場に行けばよくある事ですので、そんな慌てなくても大丈夫ですよ。さてさて・・・ようやく現場に立ち会えた」
八重桜がそう呟くとさも愉快そうな顔で嗤った。まるで突発的であるこの状況がわかっていたかの様な反応をしている。
向かってくる赤碗猿の前をよく見ると半透明な何かが距離をとりつつ誘導しているのが見えた。赤碗猿は明らかにその半透明に対して攻撃を仕掛けようとしているが攻撃に移った瞬間に距離を取られて攻撃ができずに躓いて、結果開いた距離を詰める形で進んでいる様に見受けられた。
「なるほど、モーションのタイミングを正確に把握してるのか・・・。これは開発に修正の提案を上げなければいけないか。
モーションが一律じゃないのは確かだけれど、距離感でのモーションが赤碗猿の場合限られすぎているからこういった釣りが成功してしまうのか。よく考えたものだわ。」
「そんな悠長に独り言してる場合じゃないですよおおおお、もう目の前に!!!!」
「ああ大丈夫です。こちとら運営側ですのでね。」
そういうと砕けた感じで話す八重桜が何か口ずさむと攻撃モーション途中の赤碗猿がぴたりと止まり。背を向けてきた道をすごすごと戻っていく。今まで激昂していたのが嘘のように冷静な状態で元のエリアに戻っていくのだった。
「きゃああああ!!!って・・・・あれ・・」
「ゲームですのでコマンドで状況のリセットをさせて頂きましたので。不安にさせて大変申し訳ございませんでした。」
「なんだぁ・・・ホッとしました・・・怖かった・・・」
「申し訳ございませんでした。事前に説明をしておくべきでしたね。しかしながらですが、このゲームの性質上成長していった後は、レベル制限が無いエリアも複数ございます。そういった場合には自分のレベル以上のモンスターに遭遇する場合もございます。ですので、そういった場合にも対処できるように本日レクチャーさせて頂いた基本を軸にゲームを楽しんで頂けつつ成長して頂くことを切にお願い申し上げます。これは現実でもそうですので・・・・理不尽な事は降って湧いて来ます。何事にも対処できるメンタルをというのが弊社代表の考えでもございますので。」
「そうなんですね・・・わかるような分からないような・・・・」
「おいおい解れば良いとは思います。まだ始めたばかりとお若いですので・・・まあ弊社の運営がある程度の明確な目的でプレイヤーの方々に試練や経験を与えるのは想定している内容で責任は弊社がとるからできる行動なのですが、この場合は弊社の意図する挙動ではない為、やった犯人が必ずいます。」
「え!そうなんですか・・・?自然にこちらに来たわけじゃなくてですか?」
「ええ、そうなんです。モンスターには縄張りを明確に指定しているので縄張りの外には出ない仕様になっております。
ですので、わざわざ引っ張ってきてこうやって初心者の心に恐怖心を抱かそうとする悪質な輩がいるわけですね。まあすぐそこにまだいますが?」
「えええええ!?どこにいるんですか・・・・?」
「こちらで抑えてますよ。動作全てを停止させておりますので。狩人の外套を装備しているので一定時間視認ができなくなっている状態ですよ」
そういうと八重桜の視線の先が空間が少し歪曲した様な状況があり、違和感がある。
「そう言われれば、確かになんかモヤってしてます!」
「本来の用途はスカウトがダンジョンの下見やモンスターの状況を把握するために使う用でPTの貢献の為の道具なのですが、この方はそれを使って悪さをしていたようですね…ねぇ?加賀美篤人さん。っと今のままだと話せませんでしたね。」
八重桜が軽く手を挙げるモーションをすると。揺らぎがある空間からスカウトのキャラが現れる。
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